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労使紛争

ハマキョウレックス事件(最判平成30年6月1日)

2024/04/29 更新

事案

(1)有期契約労働者と、(無期契約労働者である)正社員の業務には差がありませんでした。
しかし、正社員には、無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当、通勤手当、住宅手当が支給されていましたが、有期契約労働者にはこれらの給与が支給されていませんでした。なお、各手当の内容は以下のような内容でした。
(2)両労働者はドライバーです。無事故手当は、1か月間無事故であると月1万円が支給されます。
(3)作業手当は、特別の業務をすると月1万円~2万円が支給されます。
(4)給食手当は、従業員の給食の補助として月3500円が支給されます。
(5)皆勤手当ては、前営業日に出勤したときは月1万円が支給されます。
(6)通勤手当は、交通機関を利用する者にはその交通機関で、自動車で通勤する者にはその距離に応じて手当が支給されます。
(7)住宅手当は、21歳以下には5000円、22歳以上には月2万円が支給されます。
  なお、(無期契約労働者である)正社員は、全国規模の異動の可能性がありますが、有期契約労働者にはそのような可能性はありません。

判決

(1)個別の手当についてはその手当の趣旨から、パート・有期労働者に対し支給しないことが不合理な待遇差にあたるか判断するべきである。
(2)有期契約労働者と、(無期契約労働者である)正社員の業務には差がなく、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当に差があるのは不合理である。
(3)(無期契約労働者である)正社員は、全国規模の異動の可能性がありますが、有期契約労働者にはそのような可能性はありません。(無期契約労働者である)正社員については住宅に要する費用が多額になる可能性があるから、このための対価として、(無期契約労働者である)正社員だけに住宅手当を支給することは不合理ではない。

最判平成30年6月1日
判例タイムズ1453号59頁

前提知識


パータイム・有期雇用労働法


(1)パータイム・有期雇用労働法では、パート・有期労働者と、無期のフルタイム労働者との間に不合理な待遇差を禁止しています(同法8条、9条)。
(2)業務内容に差があり、かつ、労働条件差があるとしても、その差は業務内容の差に比例した差である必要があり、不合理な差別は許されません(パータイム・有期雇用労働8条)。

本件の問題

(1)かつては労働契約法20条の問題でしたが、現在では、パータイム・有期雇用労働法8条の問題となっています。
(2)有期契約労働者が、(無期契約労働者である)正社員の業務には差があるとしても、無期契約労働者である)正社員と比べて、特定の手当の支給がないのが不合理であるとして、その差額相当額を損害として不法行為に基づく損害賠償請求等を求めていました。

同一労働同一賃金ガイドライン

(1)同一労働同一賃金ガイドラインは、以下のような記載があります。
(2)作業内容に応じて支給される作業手当については、通常の労働者と同一の業務に従事する短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の特殊作業手当を支給しなければならない(作業手当)。
(3)精勤手当(皆勤手当)については、通常の労働者と同一の業務に従事する短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の精皆勤手当を支給しなければならない(皆勤手当)。
(4)通勤手当及び出張旅費については、通常の労働者と同一の業務に従事する短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の通勤手当及び出張旅費を支給しなければならない。
(5)転勤者用社宅の利用については、通常の労働者と同一の支給要件(例えば、転勤の有無、扶養家族の有無、住宅の賃貸又は収入の額)を満たす短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の転勤者用社宅の利用を認めなければならない。

 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html

解説

(1)本判決は、個別の手当についてはその手当の趣旨から、パート・有期労働者に対し支給しないことが不合理な待遇差にあたるか判断するべきである、としました。
(2)この判例を受けて、正社員と非正規社員の賃金格差を比べ難くくするために、基本給、賞与、退職金等に差を設けてよいが、各手当に差を設けるのを避けるべき、という考え方が生まれました。
(3)判例を分析する差には、各手当の仕組みを確認する必要があります。
 例えば、住宅手当は正社員に月2万円が支給されます(手当の支給基準)。正社員は、全国規模の異動の可能性がありますが、有期契約労働者にはそのような可能性はなかった(正社員と有期契約労働者との差)。正社員には住宅関連費用が高くなる可能性があり、住宅手当は、その対価として正当化できる根拠があります。(正社員に対する対価の支給を正当化できる根拠)。
(4)判決の内容は、ガイドラインに沿った内容といえます。

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