「偽装請負」と労働契約申し込みのみなし
2024/03/20 更新
「偽装請負」と労働契約申し込みのみなし
(1)形式上は請負契約とされているが、実質は労働者派遣となっている場合(偽装請負)に、「労働者派遣法等を免れる」目的(「免れる目的」)がある場合には、請負契約上の発注者(派遣先)は、労働者に対し労働契約の申し込みをしたものとみなされます(労働者派遣法第40条の6の第1項5号)。
(2)偽装請負に該当する行為が終わってから1年以内に、労働者が請負契約上の発注者(派遣先)と雇用契約を締結したいと申し出なければ、その効力は失われます(労働者派遣法第40条の6の第3項)。
労働者派遣法 第40条の6 1項 労働者派遣の役務の提供を受ける者(省略))が次の各号のいずれかに該当する行為を行つた場合には、その時点において、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす。ただし、労働者派遣の役務の提供を受ける者が、その行つた行為が次の各号のいずれかの行為に該当することを知らず、かつ、知らなかつたことにつき過失がなかつたときは、この限りでない。 (省略) 五 この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第26条第1項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること。 2項 前項の規定により労働契約の申込みをしたものとみなされた労働者派遣の役務の提供を受ける者は、当該労働契約の申込みに係る同項に規定する行為が終了した日から1年を経過する日までの間は、当該申込みを撤回することができない。 3項 第1項の規定により労働契約の申込みをしたものとみなされた労働者派遣の役務の提供を受ける者が、当該申込みに対して前項に規定する期間内に承諾する旨又は承諾しない旨の意思表示を受けなかつたときは、当該申込みは、その効力を失う。 4項 第1項の規定により申し込まれたものとみなされた労働契約に係る派遣労働者に係る労働者派遣をする事業主は、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から求めがあつた場合においては、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者に対し、速やかに、同項の規定により労働契約の申込みをしたものとみなされた時点における当該派遣労働者に係る労働条件の内容を通知しなければならない。 |
偽装請負(実質は労働者派遣)であること
(1) 偽装請負(実質は労働者派遣)であると認定されるには、以下の要件が必要です。
① 請負会社(派遣元会社)と労働者の間に、雇用契約があることが必要です。
② 請負契約の発注者(派遣先会社)が、労働者に対し具体的な指揮命令をしていることが必要です。
③請負会社(派遣元会社)と請負契約の発注者(派遣先会社)との間で、請負契約(労働者派遣契約)が成立していることが必要です。
(2) 請負契約でも、①③の要件を満たします。したがって、主な争点としては、②となります。つまり、請負契約の発注者(派遣先会社)が、労働者に具体的な指示を出したり、業務管理をしたりしている場合には、「請負契約の発注者(派遣先会社)が、労働者に対し具体的な指揮命令をしている」と認定されて、偽装請負(実質は労働者派遣)であると認定されます。
「労働者派遣法等を免れる」目的(「免れる目的」)があること
(1)労働契約申し込みのみなしが適用されるには、派遣先が法人である場合には、法人の代表者もしくは法人から契約締結権限を受験されている者の認識として、「労働者派遣法等を免れる」目的(「免れる目的」)があることが必要です。
(2)派遣先においては、派遣と請負の区別が困難なあり、客観的に、偽装請負(実質は労働者派遣)であることだけでは、「労働者派遣法等を免れる」目的(「免れる目的」)があるとは認定されません。
(3)日常的かつ継続的に偽装請負状態を続けていた場合には、これが違法であることに気づくことができたはずであり、「労働者派遣法等を免れる」目的(「免れる目的」)が認められる(大阪高判令和3年11月4日)。
労働者が1年以内に承諾すること
偽装請負に該当する行為が終わってから1年以内に、労働者が請負契約上の発注者(派遣先)と雇用契約を締結したいと申し出なければ、その効力は失われます(労働者派遣法第40条の6の第3項)。
成立する労働契約
(1)労働者派遣法第40条の6の1項は、「その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす。」と規定しています。
(2)例えば、請負会社(派遣元会社)と労働者の間の雇用契約が有期であれば、労働契約申し込みのみなしが適用されるとしても、請負契約の発注者(派遣先会社)との間で成立する雇用も、その期間となります。
(2)仮に、期間が明示されていなかったとしても、通達(平成27年9月30日職発0930第13号)の記載によれば、黙字の合意も含めて、労働契約の期間を判断していくことになります。
参考
ビジネスガイド2022年4月号76頁