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労使紛争

最判令和5年10月25日(性同一性障害の人が戸籍上の性別を変更するには生殖能力をなくす手術を受ける必要があるとの要件は、憲法13条に反する。)

2024/03/26 更新

判決

(1)本判決は、以下の事情を考慮して、「性同一性障害の人が戸籍上の性別を変更するには生殖能力をなくす手術を受ける必要があるとの法律の要件は、憲法13条に反する。」と判断しました。

(2)性同一性障害は、生物学的な性別と心理的な性別が不一致である状態をいい、医学的な観点から治療を必要とします。

 性同一性障害を有する者は、就職等の場面で戸籍上の性別が異なるために、性同一性障害を有することを明らかにせざるを得ない状態が生じたり、自身の認識と異なる性別上の取り扱いを受けたりしています。

 性同一性障害者が、自身の認識に従った、性別上の取り扱いを受ける権利は、個人の人格的存在と結びついた重要な権利です。

 性同一性障害を有する者が、戸籍上の性別を変更するためには、原則として、生殖能力をなくす手術を受ける必要があると制限は、身体への侵略を受けない自由の制限です。

(3)憲法13条は、自己の意思に反して身体への侵略を受けない権利を保障している。

(4)戸籍上の性別を変更するには生殖能力をなくす手術を受ける必要があるとした目的は、変更前の性別の生殖機能により子供が生まれることがあれば、親子関係に関する問題が生じ社会に混乱を生じさせるからであります。しかし、時代の流れによって、上記制限を設ける必要性は低減している。

(5)かつては、医学的見地から、性同一性障害に対する最終段階の治療として、生殖能力をなくす手術が位置付けられていた。戸籍上の性別を変更する必要性を判断するための事情として、手術を要件にすることにも合理的関連性があった。

 しかし、医学的見地も変化し、「性同一性障害に対する治療の方法として手術まで必要かどうかは患者によって異なる。」といわれるようになり、手術を要件にすることにも合理的関連性を欠くに至った。

(5)憲法13条は、自己の意思に反して身体への侵略を受けない権利を保障している。性同一性障害の人が戸籍上の性別を変更するには生殖能力をなくす手術を受ける必要があるとの法律の要件は、必要かつ合理的制約ということはできない。したがって、同規定は、憲法13条に反する。

 最判令和5年10月25日

 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/446/092446_hanrei.pdf

 判例タイムズ1517号67頁

解説

(1)LGBTQは、性的少数派のことをいいます。13人に1人の割合の人がLGBTQにあたると言われています。

(2)例えば、性同一性障害を有する者は、就職等の場面で、戸籍上の性別が異なるために、性同一性障害を有することを明らかにせざるを得ない状態が生じたり、自身の認識と異なる性別上の取り扱いを受けたりしています。
 社会全体で、LGBTQに対する配慮が求められています。

(3)経済産業省のトイレ事件は、(戸籍上の)男性が、女性トイレの使用を求めた事案がありました。
 LGBTQの対応では、①男性の苦痛と、女性社員の心理的な負担等の第三者とのバランスをとること、②濫用的な請求が起きないようにする基準を設定すること、③経過措置として許される対応と、LGBTQに対する知識を周知する必要性と、時間の経過後に、LGBTQの人々に対する配慮を再度検討する必要があります。

 本件判決も、上記の①②③について検討されており参考になります。

(4)①については、最高裁は、憲法13条によって、「性同一性障害者が、自身の認識に従った、性別上の取り扱いを受ける権利を保障している」とは判断しませんでした。あくまで、最高裁は、「憲法13条は、自己の意思に反して身体への侵略を受けない権利を保障している。」と述べたことです。

 最高裁は、「性同一性障害者が、自身の認識に従った、性別上の取り扱いを受ける権利」は保護に値する権利ではあるものの、第三者との権利とのバランスをとる必要があり、絶対的な権利ではない。」と考えていると推察されます。

(5)②については、濫用的な請求が起きないように、性同一性障害を有する者が戸籍上の性を変更する際に、何らかの要件(基準)を設けることは否定していません。

 憲法13条は、自己の意思に反して身体への侵略を受けない権利を保障しています。最高裁は、「その基準として、生殖能力をなくす手術を受けることまで要求することは、身体への侵害を受けない権利への強い制限になるから許されない。」と判示したものです。

(6)ここで、LGBTQの対応において、手術を受けること要求するような基準を設けることは違法になるか可能性が高いことが明らかになりました。

(5)③について、最高裁は、生殖能力をなくす手術を必要とする特例法について、制定当時は合法だったかのような表現をしています。

 最高裁は、「特例法の施行から約19年が経過し、1万人を超える者が性別変更の審判を受け、性同一性障害を有する者に関する理解が広まりつつあることを考慮して、他の方法でも社会的混乱を避けることができ、もはやこのような制限は違憲である。」と判断しました。

(6)③に関し、本判決は、LGBTQの対応としては、第三者の権利等を考慮して周りの理解を得られやすい段階的な制約を設けることも必要であるしやむを得ないとしています。

 しかしながら、その後、LGBTQに対する適切は配慮を求める教育をする義務があり、かつ、段階的に、LGBTQが痛みなく暮らせるように、措置を講じていく必要性を認めたものと理解すべきでしょう。

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