判例(建築工事の設計契約において、施工予算をオーバーした事案で、設計代金の一部減額が認められた。)
2024/09/13 更新
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設計会社は、予算を20億円として、建物の設計を請け負った。
施主の要望を聞きなら設計図書を作ると、最終的に、設計会社が作成した設計図書どおり作ると、30億円の建築工事費用がかかるものとなってしまった。
施主はある程度の金額アップは予想していたが、予算との開きが大きすぎ、作成された設計図書どおり建築することはできないとして、設計契約の解除と支払った設計代金の返還を求めた。
判決
判決では以下の判断がされた。
- 設計契約の契約書に、20億円という予算を守ることが絶対的な条件であるとは記載されていないかった(設計条件となっていなかった)。したがって、予算は目安である。目安であっても、設計会社には予算に配慮して設計する義務がある。
- 施主の要望を聞きなら設計図書を作ることになるが、施工予算をオーバーした理由は施主の追加要望をしたことにも原因がある。しかし、①設計会社は、施主からの個々の要望の時点で、どれくらいの予算オーバーになるのか説明していなかったこと、②完成した設計図書が30億円で、20億円との差が大きすぎること、③その後、設計会社が提案してきた減額案も22億9000万円であり、それでも差が大きいことも考慮して、設計計契約において予算に配慮して設計する義務を怠ったと判断がされた。
- 設計代金としては、設計会社も一定程度の業務をしていることを考慮して、設計代金を5割減額するのが正当とされた。
令和3年7月30日東京地裁
参考
判例タイムズ1504号179頁
解説
建物の建築の場合には、設計会社が設計し、施工会社が工事をする形で、設計と工事が分かれることがあります。
建物の建築において、通常は予算が決められて、その予算内で設計することが求められます。しかし、法律上、設計契約において予算を守る義務があるかは問題です。
施主の立場
施主の立場からすれば、設計会社には予算を守る義務があるように思えます。施主が工事代金を用意できなければ、その設計図書が無意味になるからです。
設計会社の立場
設計会社の立場からすれば、設計会社の仕事は設計図を書くことです。
資材や人件費の高騰等は予想できず、これらは設計図を完成させたあとに、施工業者に見積もりを出してみないと分かりません。
また、施主の要望を聞きなら設計図書を作ることになりますが、施主は良いものを求めるのが通常であり、施主の追加要望により予算をオーバーしがちです。
本件判決は、「設計契約においては、設計会社には予算に配慮して設計する義務がある。」こと、その義務違反にあたるかどうかについて、①施主からの個々の追加要望があった時点で、予算オーバーになる可能性についてどのような説明をしていたのか、②完成した設計図書と予算との差額、③予算オーバーが判明してからの施工会社の対応等を考慮して判断することを明確にしました。
実務的な問題
施工会社が設計と建築工事の両方を請け負う場合には、見積もり金額を決めてから施行するので、本件の問題は起きにくくなります。
もっとも、施工会社が設計を請け負う場合も、予見しない事情で追加工事が発生したり、施主の追加要望があったりすると、適切に追加費用の見積もりが出されないことでトラブルになることがあります。
施工会社が手抜き工事をしないために、設計と施行監理(設計監理)を設計会社に依頼する場合もあります。したがって、施工会社に設計を任せる方がよいというわけではありません。
「●円という予算を守ることが絶対的な条件である」と設計契約に記載する(設計条件としてする。)ことも考えられますが、施主の要望を聞きなら少しずつ設計図書を作るようなオリジナリティーの高い建物を建築する場合は現実的ではありません。
施主の要望を聞きなら少しずつ設計図書を作るようなオリジナリティーの高い建物を建築する場合は、事前に施工費用を見積もることが難しい(予算を守ることが難しい)ことを理解しつつ、設計の途中で、施主と施工業者がコミュニケーションをとって予算を管理しているのが実際です。
現場の担当者がコミュニケーションをとれない人物である場合には担当者の変更を求めるなど、積極的に動く必要があります。