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【強制執行】強制執行(債務者の立場で)

2023/10/16 更新

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強制執行(債務者の立場で)

 判決で支払いを命じられたが、不払いとするとどうなるか。
 公正証書で支払いを約束していたが、不払いとするとどうなるか。

依頼者の不安と、弁護士の説明の限界

(1)依頼者の中には、判決から命じられた金額を支払えない方もいます。
(2)しかし、弁護士としては、財産を隠すようなアドバイスはできません。そんなことになれば犯罪行為(強制執行妨害目的財産損壊等罪等)になりかねません。
(3)財産隠しのアドバイスにならない範囲で、よくある事例について簡単に説明します。

再交渉

(1)状況にもよりますが、「一括で〇円支払うので、残額の請求を放棄してほしい。」と交渉することもあります。
(2)判決で勝ったとしても、この判決だけで回収できるわけではありません。
  そこで、「回収できるかどうか分からない100万円より、回収確実な10万円の方が得でしょう。」と提案するわけです。
(3)和解交渉ではタイミングが大切です。裁判手続であれば、判決前に裁判所から「和解してはどうか。」と提案があることが多いです。これを無視しておきながら、提案するのは心理的に難しいところです。
(4)例えば、控訴しても逆転が難しくても、和解交渉をするために控訴するのも一つです。控訴審でも、判決前に裁判所が「和解してはどうか。」と提案してくれます。
(5)和解交渉をすることによるデメリットはないので、交渉するのは一つの手です。

判決や公正証書の当事者の確認

(1)会社の借金は、会社の借金であり、社長の借金ではありません。もちろん、社長が個人保証をしていれば、社長にも支払い義務が発生します。
(2)「A社に100万円を支払え。」という判決があったとしても、A社の社長個人の通帳は差し押さえられません。
(3)まずは、判決や公正証書にて支払いを命じられている当事者の名前を確認しましょう。

よくある強制執行手続

預金の差押え

(1)三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、ゆうちょ銀行のメガバンクに関しては、差押え手続がされる可能性があります。

(2)他の銀行や、ネットバンクについては、相手方が、その銀行を利用していることを知っている可能性があれば、強制執行される可能性があります。

(3)相手方と口座引落の契約をしている場合(相手方との契約書に口座を記載している)、相手型と共通する取引先がある場合(取引先から口座情報が洩れる)、離婚事件(当然、相手方がこちらの口座を知っている)、相手方からお金を受け取ったことがある場合(送金してもらったことがある場合には、当然、口座情報を伝えたことがある。)、HP等で取引銀行を宣伝している場合には、預金口座がばれている可能性があります。

不動産

(1)強制執行の対策として不動産を売却してはいけません。

(2) 不動産執行を受けた場合には、不動産に登記されるので、第三者が知ることがありえます。銀行等が不動産登記によってこれを知って、融資等が止まる可能性はあります。

(3)相手方が不動産について強制執行してくると最終的には、強制的に競売されることになります。

(4)執行手続が始まっても直ちに売却されるわけではないので、判決等で支払いを命じられた金額を支払い、強制執行手続を止めることは可能です。

取引先の売掛金の差押え

(1)取引先に対する売掛金が差押えられることがあります。

(2)「Aは相手方に対し〇万円を支払え」という判決が存在するとします。相手方の申立てに基づき、裁判所が取引先Bに対し、「本来Aさんに支払うべき代金については、相手方に支払ってください。」という文書を送ります。これが差押え手続です。

(3)相手方が、取引先を知っている可能性があれば、強制執行される可能性があります。
 相手型と共通する取引先がある場合(取引先の情報がもれる)、労働事件(社員なので取引先を知っている)、HP等で取引先を宣伝している場合には、預金口座がばれている可能性があります。
 取引先の売掛金が差押えられれば、信用不安が起こりその取引先を失うおそれがあります。

家賃収入の差押え

(1)強制執行の対策として不動産を売却してはいけません。

(2)家賃収入があれば、これを差し押さえられる可能性が高いです。

給与の差押え

(1)AさんがB社に勤務していると、そのB者からの給与が差し押さえられる可能性があります。

(2)「Aは相手方に対し〇万円を支払え」という判決が存在するとします。債権者の申立てに基づき、裁判所がB社に対し、「本来Aさんに支払うべき給与については、相手方に支払ってください。」という文書を送ります。これが差押え手続です。

(3)相手方が、勤務先を知っている可能性があれば、強制執行される可能性があります。

(4)共通の知人がいる場合には勤務先の情報がもれる可能性があります。また、相手方との間でクレジット契約をしている場合には与信情報として勤務先を記載していることがあります。また、SNSを通じて勤務先がばれる場合があります。
 また、大手企業に勤めている場合には転職するのは困難です。相手方が探偵を雇い自宅からの移動を尾行されると勤務先は発覚する可能性が高いでしょう。

(5)養育費や婚姻費用、命を奪ったもしくは怪我を負わせた場合などには、市役所や年金事務所から、勤務先を調べることができます。これは、住民税の源泉、厚生年金の控除、支払調書の関係から勤務先は、これらの情報を市役所や年金事務所に渡しており、この情報を相手方が取得する可能性があるからです

住宅の動産執行

 相手方が裁判所の職員と一緒に自宅に来て、専門業者が鍵を開けます。自宅に立ち入って、自宅に高価な財産がないか見に来て、動産の差押えの紙を貼っていくことがあります。

店舗の動産執行

 相手方が裁判所の職員と一緒に店舗に来て、店舗に高価な財産がないか見に来て、動産の差押えの紙を貼っていくことがあります。現金商売をしているお店であれば釣銭用のお金を持っていかれる恐れがあります。

財産開示

 相手方が、「財産を開示せよ。」との申し立てをしてくることがあります。
 財産開示の説明は下記のとおりです。

よくある質問

債権者が、債務者の銀行の情報を取得する制度はどんなものがありますか。

(1)判決や、裁判上の和解書がある場合には、23条照会や民事執行法の手続により、1銀行ずつ手続すれば、支店等の情報が分かえり執行ができます。しかし、1銀行の情報の開示にも5000円以上の費用がかかります。 

 債権者が費用を出して調べるとしても、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、ゆうちょ銀行のメガバンクや、楽天銀行等の有名な銀行が限界です。

(2)上記の手続で分かるのも、「銀行名、支店名、種別、口座番号」までです。取引履歴が分かれば、お金が消えている等の情報が分かるのですが、そのような情報も開示されません。

(3)債権者が債務者の銀行の情報を取得する制度がないわけではありませんが、現実的には難しいのが現状です。

債権者が、債務者の財産(銀行以外)を取得する制度はどんなものがありますか。

(1)判決や、裁判上の和解書がある場合には、民事執行法の手続により、以下の手続ができるようになりました。

 法務局に対し、不動産の情報を取得する。

 証券会社に対し、保有している上場株式の情報を取得する。
 ※ 逆に言えば、債権者が証券会社を特定するもしくは、全ての証券会社に開示の手続きをし、その費用を負担しなければならなくなります。

(2)養育費や婚姻費用、命を奪ったもしくは怪我を負わせた場合などには、市役所や年金事務所に対し、同機関が把握している勤務先の情報を提出するように請求できます。

(3)逆に言えば、上記以外の情報を債権者が取得することは困難です。例えば、債権者が債務者の提出した決算書を税務署から取り寄せることはできません。

差押えられた口座は使えなくなるのか。

(1)差し押さえられたその日に、その口座に入っていた預金は、債権者に支払われます。その日以後に入金された預金については、債権者に支払われません。
 例えば、債権執行の金額が100万円で、預金残額が30万円だとすると、預金の金額は0円となりますが、その後も今までどおり使えます。

差押えを受けたことは、他に漏れることはないのか。

(1)不動産執行を受けた場合には、不動産に登記されるので、第三者が知ることがありえます。銀行等が不動産登記によってこれを知って、融資等が止まる可能性はあります。
(2)例えば、A銀行の口座を差し押さえられた場合、A銀行で履歴が残る可能性があります。A銀行グループでの融資等は難しくなります。しかし、A銀行以外に差押の情報が出回ることはありません。
 例えば、A銀行の融資を受けていた場合には、A銀行から一括で返済せよ、と言われることがありえます。
(3)銀行、クレジットカードの支払いを滞らせると信用情報機関に記載されます。しかし、銀行口座を差し押さえられたとしても、そのことが信用情報機関に連絡されることはありません。

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