メトロコマース事件(最判令和2年10月15日)
2024/04/29 更新
事例
(1)有期契約労働者と、(無期契約労働者である)正社員の業務にはおおむね共通するが、一定程度の差があった。確かに、有期契約労働者と販売店業務に従事する正社員の業務に差は少ない。しかし、これは過去の企業再編による事情で賃金水準や配置転換が困難であったという事情があった。有期契約労働者と、多くの(無期契約労働者である)正社員を比べると、職務や配置の変更の範囲に差があった。
(2)有期契約労働者は、正社員になる登用制度があった。
(3)(無期契約労働者である)正社員には、本給に勤務年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給する退職金制度があったが、有期契約労働者にはなかった。
判決
(1)個別の手当等についてはその手当等の趣旨から、パート・有期労働者に対し支給しないことが不合理な待遇差にあたるか判断するべきである。
(2)正社員については配置転換等を命じられる可能性があった。退職金は、様々な部署で継続的に勤務する正社員を確保し、定着させることを目的としている。
(3)正社員にのみ退職金を支給したとしても、不合理ではない。
最判令和2年10月15日
判例タイムズ1483号70頁
前提知識
パータイム・有期雇用労働法
(1)パータイム・有期雇用労働法では、パート・有期労働者と、無期のフルタイム労働者との間に不合理な待遇差を禁止しています(同法8条、9条)。
(2)業務内容に差があり、かつ、労働条件差があるとしても、その差は業務内容の差に比例した差である必要があり、不合理な差別は許されません(パータイム・有期雇用労働8条)。
本件の問題
(1)かつては労働契約法20条の問題でしたが、現在では、パータイム・有期雇用労働法8条の問題となっています。
(2)有期契約労働者が、(無期契約労働者である)正社員の業務には差があるとしても、無期契約労働者である)正社員と比べて、退職金の支給がないのが不合理であるとして、その差額相当額を損害として不法行為に基づく損害賠償請求等を求めました。
解説
(1)本判決は、個別の手当についてはその手当の趣旨から、パート・有期労働者に対し支給しないことが不合理な待遇差にあたるか判断するべきである、としました。
(2)①正社員と有期契約労働者の業務に差があり、かつ、②有期契約労働者は、正社員になる登用制度がある場合には、正社員を確保する目的として、基本給、賞与、退職金に差を設けることが許容されます。
(3)①正社員と有期契約労働者の業務の差とは何でしょうか。
業務内容の違い、例えば、残業の有無、クレーム対応(対外的に責任を負う)、人事評価(対内的に仕事の責任を負う)があれば、業務の差があるといえるでしょう。
社員教育を充実させておけば、正社員の業務は高度化していきます。
人事異動があれば、(他の部署での)経験を踏まえて賃金を評価しているとして、その差を肯定しやすくなります。
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11601000-Shokugyouanteikyoku-Soumuka/0000146681.pdf