「無職・無収入」を理由に慰謝料請求は免除されるのか?
不倫(不貞行為)の事実を問い詰めた際、浮気相手が「今は仕事をしていないから払えない」「貯金も財産も一切ない」と主張してくるケースは少なくありません。しかし、相手のこのような主張によって、泣き寝入りをする必要はありません。
法的責任と支払い能力は別の問題
まず大前提として、不法行為(不倫)による損害賠償義務は、相手に支払い能力があるかどうかに関わらず発生します。無職であることや収入がないことは、慰謝料の支払い義務を免除・減額させる法的な理由にはなりません。裁判になれば、相手が無職であっても、不倫の事実に基づき適正な慰謝料の支払い命令(判決)が下されます。
相手の自己申告を鵜呑みにせず実態を調査する
相手の「お金がない」という言葉を鵜呑みにしてはいけません。本当に資産がないのか、慰謝料を逃れるために嘘をついているのかを見極める必要があります。実家暮らしで生活に余裕があったり、退職金を受け取ったばかりであったり、配偶者(ダブル不倫の場合)の収入で生活している場合があります。まずは相手の生活実態や資産状況を可能な限り調査することが重要です。
相手が本当に無職である場合の回収・交渉の手段
調査の結果、相手が現在本当に無収入であると判明した場合でも、慰謝料を回収するためのいくつかの現実的な手段が存在します。
現金以外の資産(預貯金、車、不動産)からの回収
現在の「収入」がなくても、「資産」を持っている可能性はあります。過去の貯金、株式などの有価証券、自分名義の自動車、あるいは不動産などを所有している場合、それらを売却・解約させて慰謝料の支払いに充てさせることができます。
親族(親など)からの援助による立て替え払い交渉
相手自身に支払い能力がない場合、実家の親や兄弟などの親族に事情を話し、親族から資金援助(立て替え)を受けて一括で支払ってもらうよう交渉する方法があります。法的には親族に支払い義務はありませんが、裁判沙汰になることを避けるため、親が体面を気にして代わりに支払いに応じるケースは実務上頻繁に見られます。ただし、親族への請求には注意点(後述)もあるため、慎重なアプローチが必要です。
分割払いの合意による長期的な回収計画
手元にまとまった資金がなく、親族の援助も期待できない場合の最終的な手段が「分割払い」の合意です。相手が再就職して収入を得ることを前提に、毎月数万円ずつなど、現実的に支払い可能な金額で長期的な回収計画を立てます。少額であっても、相手に責任を負わせ続ける意味があります。
将来の収入を見越した債権保全策
分割払いで合意する場合や、将来の再就職を待つ場合は、途中で支払いが滞る(逃げられる)リスクを最小限に抑えるための法的な保全措置が不可欠です。
再就職後の給与差し押さえを見据えた公正証書の作成
分割払いの合意内容は、単なる私製の示談書ではなく、必ず公証役場で「強制執行認諾文言付き公正証書」にしておきましょう。これにより、相手が再就職した後に支払いを滞納した場合、裁判を起こすことなく直ちに新しい就職先の給与や預貯金を差し押さえる(強制執行)ことが可能になります。
支払い条件に遅延損害金を定めることによる心理的プレッシャー
合意書や公正証書には、支払いが遅れた場合のペナルティとして「遅延損害金(例:年利5%など)」を明記します。また、「2回以上支払いを怠った場合は、残額を一括で支払う(期限の利益の喪失)」という条項を設けることで、相手に「支払いを遅らせてはいけない」という心理的なプレッシャーを与え、確実な回収に繋げます。
無職の相手に請求する際の注意点
回収を急ぐあまり、法律の一線を越えた取り立て行為を行わないよう注意が必要です。
自己破産による免責リスクについて
相手を経済的に追い詰めすぎると、相手が「自己破産」を選択するリスクがあります。原則として、悪意による不法行為の損害賠償請求権は免責(支払いの免除)されませんが、一般的な不倫慰謝料の場合、自己破産によって支払い義務が免除されてしまう可能性もゼロではありません。相手の状況を見極め、破産されない範囲での現実的な落とし所を探ることも時には必要です。
過度な取り立て行為(脅迫や親族への強要)の厳禁
「払わないならネットに晒す」「親の職場に乗り込む」などの発言や行動は、脅迫罪や恐喝罪に問われる恐れがあります。また、法的義務のない相手の親族に対し、無理やり支払いを強要するのも違法行為です。無職の相手からの回収交渉は難航しやすく感情的になりがちなため、交渉のプロである弁護士に代理人として間に入ってもらうことで、違法行為のリスクを避け、冷静かつ確実な回収を図ることが最も安全な選択と言えます。