「配偶者の強度の精神病」を理由とする離婚とは
配偶者が重篤な精神疾患を患い、献身的に支えてきたものの、もはや夫婦としての生活が成り立たず限界を迎えるケースがあります。法律上、精神病を理由とする離婚はどのように扱われるのでしょうか。
民法が定める法定離婚事由
話し合いによる協議離婚がまとまらない場合、裁判で離婚を認めてもらうには民法第770条1項が定める5つの要件のいずれかを満たす必要があります。その第4号には「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないこと」が規定されています。
「強度の精神病」と「回復の見込みがない」ことの基準
「強度の精神病」とは、単に病名がつく状態のことではなく、夫婦としての精神的交流(コミュニケーションや協力関係)が完全に失われ、婚姻の本質である共同生活が根本的に成り立たないレベルの重度な状態を指します。具体的には、重度の統合失調症や認知症、極めて重篤な双極性障害などが該当する可能性があります。 さらに、専門医の鑑定等によって「将来にわたって回復の見込みがない」と医学的に判断される必要があります。
うつ病や統合失調症などでの離婚は認められるか
「強度の精神病」による離婚請求に対する裁判所の判断は、非常に厳格です。
裁判所の判断基準の厳格さ
病気になった配偶者を見捨てるような形での離婚は、道義的に問題があると考えられるため、単に病状が重いという事実だけでは簡単に離婚は認められません。「強度の精神病」の要件を満たすハードルは極めて高いのが実務上の現状です。
一時的な精神疾患や軽度のうつ病の場合
軽度のうつ病や、治療によって症状の改善が見込める場合、また適応障害などの一時的な精神疾患は、「強度の精神病」には該当しません。 ただし、病気に伴う暴言や暴力(DV)、過度な浪費などがあり、関係修復が不可能になっている場合は、同項第5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚が認められる可能性があります。
離婚を成立させるための重要な要件(将来の療養監護)
判例上、配偶者が強度の精神病に該当し回復の見込みがない場合であっても、直ちに離婚が許可されるわけではありません。最高裁判所の判例により、特別な要件が加重されています。
離婚後の配偶者の生活保障と治療環境の確保
離婚によって、病気を抱える配偶者が生活に困窮したり、適切な医療や保護を受けられなくなったりすることを防ぐ必要があります。そのため裁判所は、以下のような「離婚後の療養監護の具体的な見通し」が立っているかを厳格に審査します。
- 離婚後の配偶者の治療費や生活費が確保されているか(財産分与や扶養料の支払い等)。
- 代わりに看病・援助をしてくれる親族(両親や兄弟など)がいるか。
- 適切な医療機関や保護施設での受け入れ体制が整っているか。
これまで長年にわたり誠実に看病を続け、これ以上の負担を求めることが酷であるという実績も考慮されます。
精神病を理由とする離婚における慰謝料の有無
病気にかかること自体は誰にでも起こり得ることであり、本人の責任ではありません。したがって、精神病そのものは「不法行為」には該当せず、原則として精神疾患を理由に慰謝料を請求することはできません。
しかし、病気を放置して治療を拒否し続けたことによる悪意の遺棄が認められる場合や、病気とは無関係に不貞行為やDVがあった場合には、それらを根拠として慰謝料請求が可能な場合があります。複雑な判断が必要となるため、専門家である弁護士のアドバイスを受けることが不可欠です。