財産分与における「財産隠し」のリスクと立証責任
財産分与を有利に進めるために、離婚を切り出す前からこっそりと自分の口座からお金を移したり、配偶者に内緒の隠し口座に資産を貯め込んだりする「財産隠し」は頻繁に起こるトラブルです。 財産分与では、原則として「財産がある」と主張する側に立証責任があります。つまり、「相手はもっと財産を持っているはずだ」と疑うだけでは裁判所は動いてくれず、財産の存在を裏付ける具体的な証拠を提出しなければなりません。 しかし、相手の同意なしに勝手に通帳や銀行の取引履歴を取得することはできません。そこで重要になるのが、弁護士や裁判所の権限を利用して強制的に財産情報を開示させる法的手続きです。
弁護士会照会(23条照会)による調査
相手が任意に財産を開示しない場合、まず活用されることが多いのが「弁護士会照会(通称:23条照会)」です。
弁護士会照会とは
弁護士法第23条の2に基づく制度で、弁護士が受任している事件について、所属する弁護士会を通じて官公庁や企業、金融機関などに対して必要な情報の報告を求めることができる仕組みです。
銀行口座の調査における実務と限界
相手が利用していそうな金融機関に対して23条照会を行うことで、口座の有無や残高、取引履歴の開示を求めることができます。 ただし、万能というわけではありません。金融機関によっては、個人情報保護の観点から「支店名まで特定されていないと照会に応じない」という対応をとるケースが少なくありません。「〇〇銀行のどこかの支店にあるはず」という漠然とした情報だけでは空振りに終わる可能性があるため、普段の生活圏や過去の振り込み記録などから、ある程度ターゲットを絞り込んでおく必要があります。
裁判所を通じた「調査嘱託」の活用
23条照会で回答が得られなかったり、すでに離婚調停や訴訟に発展していたりする場合には、裁判所を通じた「調査嘱託(ちょうさしょくたく)」という手続きを利用することができます。
調査嘱託とは
調査嘱託とは、当事者の申し立てに基づいて、裁判所が官公庁や銀行などの団体に対して必要な調査や書類の送付を依頼(嘱託)する手続きです。裁判所からの公的な依頼であるため、金融機関や企業なども原則としてこれに応じる義務があります。
開示されやすい情報と要件
調査嘱託を利用すれば、23条照会では開示を拒否された金融機関からでも、残高や取引履歴が開示される可能性が高まります。また、生命保険会社に対して解約返戻金の額を照会したり、証券会社に保有株式を照会したりすることも可能です。 ただし、調査嘱託も「闇雲な調査(探索的調査)」は認められません。「なぜその金融機関に口座があると考えられるのか」という合理的な理由や疎明資料を裁判所に提示し、調査の必要性を認めてもらう必要があります。
その他の財産開示手段
上記のほかにも、訴訟の判決や公正証書などの「債務名義」がある場合には、民事執行法に基づく「財産開示手続」や「第三者からの情報取得手続」を利用することも可能です。これにより、金融機関の本店を一括照会したり、市町村や年金事務所から勤務先を特定したりするなど、より強力に隠し財産をあぶり出すことが可能になっています。
まとめ:自力での調査に限界を感じたら
相手の財産を自力で探し出すのには限界があります。無理に相手の鞄や郵便物を漁る行為は、プライバシー侵害などの不法行為に問われるリスクも伴います。「財産を隠されているかもしれない」と疑念を抱いた場合は、無理に自力で解決しようとせず、23条照会や調査嘱託といった法的な調査手段を駆使できる弁護士に早期に相談し、戦略的に財産開示を進めることが成功の鍵となります。