まだ受け取っていない退職金も財産分与の対象になる?
離婚時において、すでに配偶者に支給され、預貯金等として残っている退職金が財産分与の対象となることは間違いありません。 問題となるのは、「まだ支給されておらず、将来支給される予定の退職金」です。
結論から言えば、将来の退職金であっても、支給される蓋然性(確実性)が高いと認められる場合には、財産分与の対象となります。
退職金は「賃金の後払い」としての性質を持つと考えられているため、婚姻期間中の労働に対する後払い部分については、配偶者の内助の功(協力)があったとして共有財産とみなされるのです。
支給の「蓋然性(確実性)」はどう判断されるか?
将来の退職金が財産分与の対象となるためには、実際に退職金が支払われる可能性が高いこと(蓋然性)が必要です。 裁判実務上、以下の要素を総合的に考慮して判断されます。
- 現在の年齢と定年までの年数:定年まで残り数年〜10年程度であれば、蓋然性が高いと認められやすい傾向にあります。逆に、定年まで20年以上ある若年層の場合は、倒産や自己都合退職のリスクが考慮され、対象外とされることがあります。
- 勤務先の規模や経営状況:公務員や大企業(一部上場企業など)であれば、退職金規程がしっかりしており倒産リスクも低いため、数十年先であっても対象と認められるケースが増えています。
- 退職金規程の有無:就業規則や退職金規程で支給基準が明確に定められている必要があります。
退職金の財産分与の計算方法
将来の退職金を分与する場合、どのように金額を算定するのでしょうか。代表的な2つの計算方法を紹介します。
1. 別居時の自己都合退職金を基準とする方法(原則)
最も一般的な方法は、「もし別居時(または離婚時)に自己都合退職したらいくら支給されるか」を勤務先の退職金規程に基づいて計算し、その金額を対象とする方法です。
計算式:
別居時の自己都合退職金額 × (婚姻期間 ÷ 入社から別居までの期間) × 1/2(分与割合)
この方法は、現在確定している金額をベースにするため、計算が明確であり、将来の未払いリスクを回避できるメリットがあります。
2. 将来の定年退職金を現在価値に割り引く方法(ホフマン式など)
定年まで間近である場合や公務員の場合に用いられることがある方法です。将来支払われる予定の「定年退職金」の満額をベースに、婚姻期間の割合を掛け、さらに「中間利息(将来受け取るお金を今受け取るための金利調整)」を控除(ライプニッツ係数やホフマン係数を使用)して現在の価値を算出します。
請求時の注意点と実務上のハードル
将来の退職金を分与する場合、「支払いのタイミング」が大きな争点となります。
- 離婚時に先払いしてもらう(代償分割):退職金の満期を待たず、他の財産(預貯金など)から退職金相当額を上乗せして支払ってもらう方法です。最も安全ですが、相手に十分な手持ち資金がないと実現不可能です。
- 将来、退職金が支給された時に支払ってもらう:相手に資金がない場合の選択肢です。ただし、「何年も先まで相手と連絡を取り続ける必要がある」「相手が退職金を使い込んでしまうリスク」「会社が倒産するリスク」など、回収不能になる危険性が非常に高いため、公正証書等で厳格な取り決めをしておく必要があります。
まとめ
配偶者が長年勤務しており退職金が見込める場合、将来の退職金も大きな財産分与の対象となります。まずは、配偶者の勤務先に「退職金規程」があるか、そして「現在退職したらいくらになるか(退職金見込額証明書)」を取得できるかを確認することが、有利な交渉の第一歩となります。