有責配偶者とは何か
「有責配偶者」とは、自らの責任によって婚姻関係を破綻させた配偶者のことを指します。代表的な例としては、配偶者以外の異性と肉体関係を持つ「不貞行為(不倫・浮気)」を行った場合や、配偶者に対してドメスティックバイオレンス(DV)やモラハラ(モラルハラスメント)を行った場合、正当な理由なく生活費を渡さない「悪意の遺棄」を行った場合などが該当します。
日本の法律実務において、自ら婚姻関係を壊すような行為をしておきながら、自分から「離婚したい」と請求することは、道義的に許されないと考えられています。そのため、原則として有責配偶者からの離婚請求は裁判では認められません。相手方が離婚に同意すれば協議離婚は成立しますが、相手方が頑なに拒否している場合、有責配偶者側から一方的に離婚を成立させることは極めて困難です。
有責配偶者からの離婚請求が例外的に認められる3つの条件
原則として認められない有責配偶者からの離婚請求ですが、過去の最高裁判所の判例(昭和62年9月2日判決)により、以下の3つの条件をすべて満たす場合には、例外的に離婚請求が認められる可能性があると示されました。
1. 夫婦の別居が両当事者の年齢および同居期間との対比において相当の長期間に及んでいること
別居期間が非常に長く、婚姻関係が完全に形骸化しており、もはや修復が不可能であると客観的に判断される必要があります。 具体的に「何年別居すればよいか」という明確な基準はありませんが、かつては10年以上の別居が必要とされていました。現在では、同居していた期間や当事者の年齢などの事情を総合的に考慮して判断されますが、概ね7年から10年程度の長期間の別居期間が求められる傾向にあります。
2. 夫婦の間に未成熟の子どもがいないこと
「未成熟の子ども」とは、経済的に自立しておらず、親の監護や扶養を必要とする子どものことを指します。年齢だけで一律に決まるわけではありませんが、一般的には未成年の子どもや、成人していても学生で親の援助が必要な子どもなどが該当します。 未成熟の子どもがいる場合、両親の離婚によって子どもが精神的・経済的に大きな不利益を被る可能性が高いため、有責配偶者からの離婚請求は認められにくくなります。子どもがすでに独立しているか、経済的に自立していることが求められます。
3. 相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態に置かれないこと
離婚によって、離婚を請求された側の配偶者(無責配偶者)が、生活困窮に陥ったり、精神的に耐え難い苦痛を受けたりするなど、著しく過酷な状況に置かれないことが必要です。 これを回避するためには、有責配偶者側が誠意をもって十分な経済的支援(高額な解決金や慰謝料の支払い、財産分与における有利な条件の提示など)を行うことが重視されます。十分な経済的補償の提示がないままでは、この条件を満たすことは難しいでしょう。
実務における有責配偶者からの離婚交渉
上記の3条件を完全に満たすには非常に長い時間と高いハードルがあります。しかし、実際の離婚実務においては、裁判で争う前に「協議」や「調停」の段階で解決を目指すことが一般的です。
相手方が離婚を拒否している理由の多くは、「許せない」という感情的な問題や、「離婚後の生活が不安」という経済的な問題に起因します。有責配偶者が離婚を望む場合、自己の非を認めた上で、相場以上の慰謝料や解決金を提示し、誠意をもって交渉することが重要です。
法的な条件を満たしているかの判断や、相手方との冷静な交渉は、当事者同士では感情的になりやすく困難を極めます。有責配偶者の立場から離婚を進めたい場合は、法的な見通しを立てて適切な解決策を提示できる弁護士に相談することが、早期解決への近道となります。