収入情報の開示命令による相手方収入調査|隠された勤務先を特定する法手続き

養育費・婚姻費用請求における収入調査の重要性

離婚時の養育費や、別居中の婚姻費用の金額は、原則として家庭裁判所が公表している「算定表」を用いて算出されます。この算定表は、支払う側(義務者)と受け取る側(権利者)の双方の「実際の収入額」を基礎としています。

相手方が収入を隠すケース

調停や審判の手続きにおいて、適正な金額を算定するためには給与明細や源泉徴収票、確定申告書などの収入証明資料の提出が不可欠です。しかし、支払額を低く抑えようとして故意に資料の提出を拒否したり、自営業者が意図的に所得を過少申告していると疑われるケースがしばしば発生します。

適切な算定には正確な所得把握が不可欠

相手方が任意で資料を提出しない場合、そのままでは適正な算定ができず、不利な条件で合意せざるを得ない事態になりかねません。このような不利益を防ぐため、法的な手続きを利用して相手方の収入情報や勤務先を調査・特定する方法があります。

文書提出命令による給与明細・源泉徴収票の開示

裁判所を通じた文書提出命令とは

調停や審判、裁判の手続き中において、相手方がどうしても収入資料を提出しない場合、裁判所に対して「文書提出命令」の申し立てを行うことができます。これが認められると、裁判所から相手方に対し、源泉徴収票や給与明細、確定申告書などの提出を命じることができます。 また、相手方の勤務先(会社)など第三者に対して、直接文書の提出を求める「文書送付嘱託」という手続きを利用することもあります。

相手方が提出を拒否した場合のペナルティ

裁判所からの文書提出命令を正当な理由なく拒否した場合、裁判所は、相手方の収入に関するこちらの主張(推定される収入額など)を真実であると認めることができるとするペナルティが課される可能性があります。これにより、相手方に資料提出を強く促すプレッシャーとなります。

勤務先が不明な場合の「第三者からの情報取得手続」

相手方が転職して現在の勤務先を教えてくれない場合や、養育費の支払いが滞り給与の差し押さえ(強制執行)をしたいが勤務先が不明な場合、かつては泣き寝入りせざるを得ないケースが多くありました。しかし、法改正により新たな制度が利用できるようになりました。

改正民事執行法に基づく新たな制度

令和2年(2020年)4月に施行された改正民事執行法により、「第三者からの情報取得手続」が新設されました。これにより、裁判所を通じて、公的機関などから債務者(支払義務者)の財産や勤務先に関する情報を取得することが可能になりました。

市町村等への情報照会(給与支払報告書など)

この制度を利用すると、市区町村に対して、相手方の給与支払報告書等の記載内容に関する情報の提供を命じることができます。これにより、相手方に給与を支払っている会社名や所在地を特定できる可能性が高まります。

年金機構等への照会による勤務先の特定

また、日本年金機構や厚生年金基金などに対して、相手方の厚生年金等の適用事業所に関する情報の提供を命じることも可能です。相手方が会社員等で社会保険に加入していれば、現在の勤務先を高い確率で特定することができます。

制度を利用するための要件と注意点

債務名義(調停調書や判決など)の存在

「第三者からの情報取得手続」を利用するためには、すでに養育費や婚姻費用の支払いについて法的な効力を持つ「債務名義」があることが大前提となります。具体的には、確定判決、和解調書、調停調書、公正証書(強制執行認諾文言付き)などがこれに該当します。口約束や単なる念書だけでは利用できません。

財産開示手続きの先行要件について

給与債権(勤務先)に関する情報を取得する場合、原則として、事前に「財産開示手続」を実施し、それでも完全な回収ができなかった(または相手方が財産開示期日に出頭しなかった等)という要件を満たす必要があります。ただし、子どものための養育費の請求等の場合は特例があり、要件が一部緩和されています。

相手方の収入・勤務先調査を弁護士に依頼するメリット

相手方の財産や収入を法的な手段を用いて調査するには、煩雑な要件を満たし、正確な申立書を作成する必要があります。また、どの段階でどの手続きを選択すべきかの専門的な判断も求められます。相手が収入を隠している、または支払いを怠り勤務先もわからないとお困りの場合は、強制執行等の手続きに強い弁護士にぜひご相談ください。

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