DV被害者が抱える「調停」への不安
ドメスティック・バイオレンス(DV)や深刻なモラルハラスメントの被害に遭われている方にとって、離婚に向けた話し合いを直接行うことは極めて危険であり、事実上不可能です。そのため、第三者である裁判所を介する「離婚調停」を利用することが一般的です。
しかし、「調停のために裁判所へ行けば、加害者である配偶者と顔を合わせてしまうのではないか」「待ち伏せされて危害を加えられるのではないか」という強い恐怖を抱く方は少なくありません。 家庭裁判所では、DV被害者の安全を確保し、安心して手続きを進められるよう、様々な配慮措置(接触回避措置)が用意されています。
裁判所が講じる具体的な接触回避措置
家庭裁判所に事前に申し出を行うことで、以下のような措置を受けることが可能です。
1. 待合室の分離と別の階での待機
通常の調停では、申立人と相手方の待合室は同じ階の別の部屋に設けられることが多いですが、DV事案では、顔を合わせるリスクを完全に排除するため、待合室を「別の階」に離して配置する配慮がなされます。被害者は安全な場所で待機し、調停委員が呼びに来るまで部屋を出る必要がありません。
2. 出頭・退出時間のずらし(時差入退場)
調停期日における裁判所への「到着時間」と「退出時間」を、加害者と被害者で意図的にずらす措置です。 例えば、被害者が先に裁判所に到着して調停室に入り、その後で加害者が呼び出されるようにします。帰る際も、被害者を先に退出させ、加害者は一定時間裁判所内に留め置くことで、行き帰りでの鉢合わせや待ち伏せを防ぎます。
3. 調停室への入退室ルートの分離と職員の同行
調停室と待合室を移動する際、当事者が鉢合わせしないよう、異なる廊下やエレベーターを使用するなどルートを分離します。また、移動の際には裁判所書記官や家庭裁判所調査官などの職員、場合によっては裁判所の警備員が同行し、安全を確保します。
4. 事情聴取の工夫と当事者間での同席回避
調停の開始時や終了時に、通常は手続きの説明などで当事者双方が同席する手続きが行われることがありますが、DV事案では一切の同席を行わず、個別に説明を受けたり事情を聴取されたりする運用が徹底されます。
安全を確保するために必要な事前準備
これらの措置は裁判所が自動的に行ってくれるわけではありません。安全を確保するためには、「事前の申告」が必須です。
調停を申し立てる際、申立書の「進行に関する照会回答書」などの書面で、DV被害があること、相手方との接触に強い恐怖を感じていること、安全確保のための配慮を希望することを明確に記載してください。必要に応じて、事前に裁判所書記官に電話で事情を説明し、当日の導線や待機場所について打ち合わせを行うことも重要です。
弁護士を代理人とする最大のメリット
DV事案においては、被害者本人が単独で裁判所に出向くこと自体が大きな精神的負担となります。弁護士に依頼することで、以下のような保護を受けることができます。
- 住所の秘匿: 相手方に現在の避難先(シェルターや実家など)の住所を知られないよう、弁護士の事務所を書類の送達場所として指定できます。
- 同行と代理出頭: 調停期日には弁護士が必ず同行し、付き添います。被害者の精神状態によっては、本人は出頭せず、弁護士のみが代理人として出頭し、手続きを進めることも可能です(※事案や手続きの段階によります)。
- 裁判所への確実な働きかけ: 弁護士が裁判所に対して適切な保護措置を強力に要請し、万全の態勢を整えます。
DV・モラハラを理由とする離婚手続きは、身体的・精神的な安全の確保が最優先です。ご自身の身を守るためにも、手続きを進める前にDV問題に強い弁護士へ相談することを強くお勧めします。