相手が収入を隠すと養育費の金額が決まらない
養育費の適正な金額は、裁判所が公表している「養育費算定表」を用いて、「支払う側(義務者)の収入」と「受け取る側(権利者)の収入」のバランスによって算出されるのが実務の基本です。
したがって、養育費を計算するためには、お互いの最新の源泉徴収票や確定申告書、給与明細などの収入証明資料を提出し合う必要があります。 しかし、支払う額を少しでも減らしたいと考える配偶者が、「収入資料を提出しない」「無職だ、給料が減ったと嘘をつく」など、収入の開示をかたくなに拒否するケースが調停の現場で頻発していました。
これまでの限界と裁判所の苦肉の策
これまでは、相手が収入を開示しない場合、裁判所が強制的に相手の給与明細を取り上げるような直接的な権限はありませんでした。 そのため、「賃金センサス(厚労省が発表している同年代の平均年収)」を用いて仮の収入を推計したり、過去の断片的な資料から強引に収入を認定するといった、実態と乖離する恐れのある方法をとらざるを得ず、調停が長期化する大きな要因となっていました。
2026年導入の「情報開示命令」の仕組み
この問題を解消し、子どものための養育費を迅速に決定するため、2026年の法改正によって「情報開示命令制度」が新設されました。
これは、養育費(または婚姻費用)の算定のために必要があると認められる場合、家庭裁判所が当事者に対して、「自己の収入や財産に関する状況を記載した文書(財産目録や収入証明書など)を提出しなさい」と法的な「命令」を出すことができる制度です。
開示命令の対象となる資料
- 直近の源泉徴収票や確定申告書の控え
- 給与明細書(数ヶ月分)
- 課税証明書・非課税証明書
- (自営業者の場合)帳簿や決算書など
命令に違反した場合のペナルティ
ただの「お願い」ではなく裁判所からの「命令」であるため、正当な理由なく提出を拒んだり、わざと嘘の収入額を記載した資料を提出した場合には、「10万円以下の過料(行政罰)」というペナルティが科されることになります。 この過料の制裁によって心理的な強制力が働き、適正な資料提出が促されることが期待されています。
第三者(金融機関など)への情報提供命令との違い
離婚問題における財産調査の方法としては、すでに「第三者からの情報取得手続(財産開示手続)」という制度が存在し、金融機関から口座情報を、市町村から勤務先情報を強制的に取得することができます。
しかし、これらの手続きは原則として「すでに養育費の金額が確定(債務名義がある)しているのに支払われない」という強制執行の段階でしか利用できませんでした。 今回新設される情報開示命令は、「まだ金額が決まっていない(これから金額を決めるための調停や審判の)段階」で利用できるという点に大きな価値があり、養育費決定までのスピードを飛躍的に早めるものと評価されています。