慰謝料・婚姻費用(生活費)

「婚姻費用(こんいんひよう・婚費)」とは?別居中の生活費を相手へ請求する権利

大阪弁護士会所属 弁護士 井上正人 監修

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、民法第763条(協議離婚)、第770条(裁判離婚)、第768条(財産分与)、2026年改正民法(共同親権・法定養育費)の規定および多数の離婚・親権・財産分与の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q: 「婚姻費用(こんいんひよう・婚費)」とは?別居中の生活費を相手へ請求する権利
A: 婚姻費用(婚費)とは、夫婦が別居している期間中も、収入の多い側が少ない側に対して支払う義務がある生活費のことです。法律上、夫婦は「同居し、互いに協力して扶助しなければならない(民法752条)」と定められており、これは別居中であっても離婚が成立するまで継続します。生活費にお困りの場合は、弁護士を通じて速やかに婚姻費用分担請求を行うことが重要です。

婚姻費用(婚費)とは?別居中の生活を支える大切な権利

夫婦仲の悪化や離婚に向けた話し合いの結果、一方が家を出て別居状態になることは少なくありません。このとき、専業主婦(夫)やパート勤務などで収入が少ない側が、経済的な不安を抱えるケースは非常に多く見られます。

このような別居期間中に必要となる生活費全般のことを、法律用語で婚姻費用(こんいんひよう)、略して「婚費(こんぴ)」と呼びます。

法律上の根拠:夫婦の「生活保持義務」

法律上、夫婦は結婚している以上、自分と同程度の生活を相手にも保障しなければならないという「生活保持義務」を負っています。これは、単に最低限の衣食住を支えればよいというものではなく、お互いの収入や社会的地位に応じた、同等レベルの生活を維持させなければならないという非常に強い義務です。

そのため、たとえ一方が家を出て別居を始めたとしても、離婚が正式に成立するまでは、収入の多い配偶者に対して生活費の支払いを求めることができます。

離婚との違い:養育費との境界線

婚姻費用とよく混同される言葉に「養育費」があります。両者の最大の違いは、請求できる対象期間と範囲です。

  • 婚姻費用:夫婦が婚姻関係にある(=まだ離婚していない)期間中の生活費全般。自分自身の生活費に加え、子供を監護している場合は子供の養育費や教育費もすべて含まれます。
  • 養育費:離婚が成立した後に、子供を引き取らなかった親が、子供を育てる親に対して支払う費用。子供の生活費や学費などに限定されます。

つまり、別居中であっても離婚届を提出するまでは、請求する名目は「婚姻費用」となります。


婚姻費用はいくらもらえるのか?算定の仕組み

「実際に相手にいくら請求できるのか」は、多くの方が最も気になるところでしょう。婚姻費用の金額は、感情論ではなく、裁判所の「婚姻費用算定表」という基準を用いて客観的に算出されます。

算定表の基本的な見方

裁判所の算定表は、以下の要素を組み合わせてグラフ化されています。

  • 権利者(受け取る側)の年収(給与所得者か、自営業者か)
  • 義務者(支払う側)の年収(給与所得者か、自営業者か)
  • 子供の人数と年齢(0〜14歳、15〜19歳)

基本的には、お互いの収入の差が大きいほど、また子供の人数が多く年齢が高いほど、受け取れる婚姻費用の金額は高くなります。インターネット上で公開されている最新の算定表を参照することで、おおよその目安額を確認することができます。

別居の原因や有責配偶者による影響

「自分から家を出た」「相手に不貞行為(浮気)があった」といった別居の経緯や原因がある場合、婚姻費用の金額に影響が出るのか疑問に思うかもしれません。

基本原則として、婚姻費用は「生活を維持するための扶助義務」に基づくものであるため、別居の引き金がどちらにあるか(有責性)だけで金額がゼロになることは原則としてありません。ただし、別居に至った経緯や双方の生活実態によっては、実務上細かな調整が行われるケースもあります。複雑な事情がある場合は、弁護士にご相談いただくことで正確な見通しを立てることができます。


婚姻費用を請求するための具体的な手順

「相手が生活費を一切入れてくれない」「話し合いに応じない」という場合、泣き寝入りする必要はありません。法律に則った正式な手続きを踏むことで、強制力を持って請求することができます。

1. 相手への任意での話し合い(内容証明郵便の活用)

まずは、電話やメール、書面などで婚姻費用の支払いを求めます。口頭の請求では「言った・言わない」のトラブルになりやすいため、内容証明郵便を用いて正式に請求の意思表示と具体的な金額を通知することが効果的です。弁護士名義で通知書を送付することで、相手が真剣に話し合いに応じるようになるケースも少なくありません。

2. 家庭裁判所への「婚姻費用分担請求調停」の申し立て

当事者間の話し合いで合意に至らない場合、あるいは相手が連絡を無視し続ける場合は、家庭裁判所に「婚姻費用分担請求調停」を申し立てます。

調停では、裁判所が選任した調停委員(男女1名ずつなど)が間に入り、双方の収入証明書(源泉徴収票や確定申告書など)を確認しながら、算定表をベースにした妥当な金額について話し合いを行います。

3. 審判手続きへの移行

調停でもお互いの主張が平行線をたどり、合意に達しない場合は、自動的に「審判」という手続きに移行します。審判では、裁判官が双方の事情や証拠を総合的に考慮し、婚姻費用の金額を強制的に決定(審判を下す)します。


婚姻費用請求における重要な注意点

婚姻費用をスムーズに受け取り、損をしないために、実務上特に知っておくべきポイントを解説します。

「請求した時点」からしか遡って受け取れない

婚姻費用は、「別居した日から自動的に発生する」ものではありますが、過去の分を無制限に遡って請求できるわけではありません原則として、「相手に対して明確に婚姻費用を請求した意思表示(内容証明郵便の発送や調停の申し立てなど)をした時点」以降の分しか認められない傾向にあります。

そのため、別居を決意したら、生活費の請求は一刻も早く行うことが極めて重要です。「いつか話し合おう」と放置している期間の生活費は、後から請求できなくなるリスクがあるため注意してください。

取り決めは必ず「公正証書」または「調停調書」に残す

話し合いで「毎月〇万円を支払う」と口頭で約束しても、数ヶ月後に支払いが滞るトラブルが後を絶ちません。将来の未払いを防ぐため、合意に至った内容は必ず書面化しましょう。

公証役場で「執行認諾文言付公正証書」を作成しておけば、万が一相手が支払いを怠った際、裁判を起こさなくても給与の差し押さえなどの強制執行手続きに移ることができます。


まとめ:別居中の生活費にお悩みなら弁護士へご相談を

婚姻費用は、別居中の生活を支えるための法律上正当な権利です。しかし、相手が話し合いに応じてくれなかったり、算定額で揉めたりして、一人で解決するのは大きな精神的負担となります。

夕陽ヶ丘法律事務所では、依頼者様のプライバシーに配慮した落ち着いた相談ブースをご用意し、丁寧にお話を伺っております。相手との交渉や裁判所手続きの代理、適正額の算定など、専門的なサポートを通じてあなたの生活と権利を守ります。生活費の請求でお困りの際は、どうぞお気軽にご相談ください。

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