慰謝料・婚姻費用(生活費)

別居中の「医療費(高額医療費・歯科矯正代等)」の婚姻費用とは別の分担

大阪弁護士会所属 弁護士 井上正人 監修

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、民法第763条(協議離婚)、第770条(裁判離婚)、第768条(財産分与)、2026年改正民法(共同親権・法定養育費)の規定および多数の離婚・親権・財産分与の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q: 別居中の「医療費(高額医療費・歯科矯正代等)」の婚姻費用とは別の分担
A: 婚姻費用算定表には通常の医療費が含まれていますが、高額療養費制度を利用するような予期せぬ大病の治療費や、子供の治療上不可欠な歯科矯正代などは、算定表の枠外として別途請求が認められる可能性があります。実務上は、夫婦の年収比率に応じて分担割合を算出し、事前に相手方の同意を得ておくこと、または法的根拠を明確にした上で弁護士を通じて請求することが重要です。

夫婦が別居を開始した際、収入の少ない側(権利者)は、収入の多い側(義務者)に対して婚姻費用(生活費)を請求することができます。この婚姻費用の金額は、裁判所が公開している「婚姻費用算定表」を基準に決定されるのが一般的です。

しかし、算定表に基づいて毎月定額を受け取っている最中に、想定外の大きな出費が発生することがあります。その代表例が、突発的な大病による高額な医療費や、子供の治療を目的とした歯科矯正費用などです。

「毎月の婚姻費用の中に医療費も含まれているのだから、自分で何とかしなければならないのだろうか」と一人で悩まれる方は少なくありません。実は、法的な解釈や過去の審判例において、通常の範囲を超える特別な医療費は、通常の婚姻費用とは別に分担請求が認められるケースが存在します。

この記事では、別居中の高額医療費や歯科矯正代の取り扱いについて、法律上の考え方や具体的な請求方法、実務でトラブルを回避するためのポイントを詳しく解説します。

婚姻費用算定表と医療費の関係

裁判所の婚姻費用算定表は、日本全国の一般的な家計調査データをベースに、夫婦それぞれの総収入から基礎控除や税金、職業経費などを差し引き、食費や住居費、医療費などの生活維持に必要な費用を網羅的に計算して作成されています。

そのため、風邪薬の購入や、日常的な通院にかかる少額の自己負担分などは、原則として毎月の婚姻費用の中にすでに含まれているとみなされます。

算定表に含まれない「特別な医療費」とは

一方で、算定表の前提を超えるような高額な支出については、個別の事情を考慮して「特別経費」として別途請求の対象になることがあります。具体的には、以下のようなケースが該当します。

  • 予想外の大病や大怪我による、高額療養費制度の自己負担限度額を超える医療費
  • 長期の入院や手術にともなう特殊な治療費
  • 医師の診断に基づく、子どもの成長や健康維持に不可欠な歯科矯正費用
  • 心身の障害や難病に対する継続的な高額治療費

特に子どもの歯科矯正について、単なる審美目的(見た目の改善)であれば請求が難しいケースが多いですが、噛み合わせの異常による咀嚼障害の改善や、将来的な健康被害を防ぐために「医師の医学的な必要性の診断」がある場合は、教育費や特別医療費としての分担が認められやすくなります。

高額医療費や歯科矯正代を別途請求するための法律上の要件

別居中の配偶者に対して、通常の婚姻費用とは別に医療費の分担を求めるためには、いくつかの重要なハードルをクリアする必要があります。感情的な対立から「払わない」と言われてしまうことも多いため、客観的な根拠を揃えることが不可欠です。

1. 治療の必要性と相当性

その医療行為や治療が客観的に見て不可欠であったかどうかが問われます。自分勝手な判断による自由診療や、必要性の低い美容整形などは認められません。必ず主治医の診断書や治療方針を示す資料を準備する必要があります。

2. 事前の協議または合意の重要性

裁判所の手続きにおいて医療費の追加請求を行う際、「事前に相手方に相談し、合意を得ていたか」が極めて重視されます。高額な治療を開始する前に、書面やメール、LINEなどの履歴が残る形で、医療費の見積もりと治療の必要性を相手方に通知しておくことが望ましいです。

ただし、生命に関わる緊急の手術など、事前協議をしている余裕がない状況であった場合は、事後速やかに報告と請求を行うことで認められる余地もあります。

3. 夫婦の資力に応じた分担割合

医療費の負担額をどのように決めるかについては、算定表の考え方と同様に、夫婦それぞれの基礎収入の割合(年収比率)に応じて按分するのが一般的です。例えば、夫の年収が600万円、妻の年収が200万円(別居中でパート勤務等)の場合、合計800万円に対するそれぞれの割合(75%対25%)に基づき、医療費総額の75%を夫に請求するというアプローチをとります。

請求を進める際の実務的なステップ

実際に高額医療費や歯科矯正代が発生した場合、どのように交渉を進めるべきか、夕陽ヶ丘法律事務所の弁護士が推奨する実務的なステップを解説します。

ステップ1:証拠書類の収集と整理

まずは、医療費に関するあらゆる証拠を手元に集めます。

  • 病院やクリニックからの診断書・意見書(医学的必要性の証明)
  • 治療計画書や見積書
  • 実際に支払った際の領収書および診療明細書
  • 高額療養費制度を利用した場合は、その支給決定通知書

これらの書類が揃っていなければ、相手方だけでなく裁判所に対しても正当性を主張することができません。

ステップ2:相手方への書面またはメッセージによる通知

感情的な口頭での請求は、さらなる紛争を招く原因になります。冷静に、かつ法的根拠を意識した文面で相手方に通知します。

この際、「医療費の全額を支払ってほしい」とするよりも、「夫婦の収入割合に応じて、以下の金額をご負担いただきたい」と誠実かつ理路整然と提案する方が、任意での合意を引き出しやすくなります。

ステップ3:合意書の作成(公正証書化の検討)

相手方が支払いに応じることになった場合は、口約束で済ませず、必ず合意書(示談書)を作成します。将来的に再び「言った・言わない」の争いにならないよう、どの医療費をいつまでに、どのような方法で支払うのかを明記します。

高額な医療費が継続的に発生する場合や、歯科矯正のように数年間にわたって分割払いが続く場合は、将来の不払いリスクに備えて、強制執行認諾文言付きの公正証書にしておくことが安全です。

ステップ4:協議で解決しない場合の法的手続き

相手方が話し合いに応じず、医療費の分担を拒絶し続ける場合は、家庭裁判所に「婚姻費用分担請求調停」を申し立てる(あるいはすでに係属中の調停・審判の中で主張する)ことになります。

調停の場では、担当の調停委員に対して、単なる生活費の枠を超えた特段の事情があることや、医療費の必要性、夫婦の資力のバランスを粘り強く説明し、妥当な解決策を導き出します。

2026年改正民法と家族法務の最新動向を踏まえたアドバイス

近年、家族法を取り巻く法制度は大きな転換期を迎えています。2026年に施行される改正民法や関連法制においては、共同親権の導入など子の利益を守るための仕組みが整備されつつあります。

これに伴い、離婚前後の別居期間中における子どもの養育環境や医療・教育に関する費用負担についても、裁判所の判断基準がより柔軟かつ実質的なものになる傾向が見られます。子どもが健やかに成長するために必要な医療行為や歯科矯正代については、親の義務として厳格に捉えられるケースが増えています。

「うちは算定表の金額をもらっているから無理だと言われた」「高額すぎて自分で払う余裕がない」と諦めてしまう前に、まずは法律の専門家である弁護士に現在の状況をご相談ください。

夕陽ヶ丘法律事務所では、落ち着いた相談ブースとプライバシーに配慮した面談スペースをご用意し、あなたの置かれた状況や家計のバランスを丁寧にヒアリングいたします。婚姻費用の適正額の算定から、今回のような特別な医療費の分担交渉、調停・審判代理まで、依頼者様の正当な権利を守るために全力でサポートいたします。一人で抱え込まず、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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