財産分与の実務

相手が「海外赴任・海外居住」している場合の国内資産の仮差押え・差押え

大阪弁護士会所属 弁護士 井上正人 監修

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、民法第763条(協議離婚)、第770条(裁判離婚)、第768条(財産分与)、2026年改正民法(共同親権・法定養育費)の規定および多数の離婚・親権・財産分与の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q: 相手が「海外赴任・海外居住」している場合の国内資産の仮差押え・差押え
A: 配偶者が海外に居住していても、日本国内にメガバンクの預貯金や持ち家などの不動産がある場合、法的な手続きを踏むことで差押えや仮差押えが可能です。海外居住者は連絡がつきにくく、財産を隠匿・持ち出す恐れが高いため、離婚や財産分与の請求に先立って「仮差押え」で国内資産を保全することが極めて有効です。弁護士を通じて国内の財産調査と保全手続きを迅速に行いましょう。

配偶者の突然の海外赴任や、話し合いを拒んだままの海外移住に直面し、「国内に残された財産をどうやって守ればいいのか」「連絡が取れない中で財産分与や養育費を請求できるのか」と途方に暮れていらっしゃる方は少なくありません。

相手が物理的に日本から離れてしまうと、一般的な交渉ルートが断たれてしまい、そのまま放置すれば国内の財産を勝手に処分されたり、預貯金を海外送金されてしまったりする危険性があります。

本記事では、海外赴任や海外居住をしている配偶者に対して、日本国内にある資産(メガバンクの預貯金口座や持ち家不動産など)を対象に行う「仮差押え」および「差押え」の手続きと実務上のポイントについて、弁護士の視点から詳しく解説します。

海外居住の配偶者がいる場合の法的リスクと国内資産の重要性

配偶者が海外に赴任・居住している場合、日本国内での法的手続きを進める上でいくつかの大きな壁立ちはだかります。しかし、見方を変えれば、日本国内に資産が残されている限り、取り戻すための法的手段は十分に存在します。

海外逃亡・財産隠匿のリスク

海外に生活拠点を移した配偶者の中には、日本の家族との関係を一方的に断ち切ろうとするケースが見受けられます。 連絡先を変えられたり、日本の住所が実質的に不在になったりすると、裁判所からの書類送達(公示送達など)に時間がかかるだけでなく、日本国内にある財産を勝手に処分・隠匿されるリスクが急激に高まります。

なぜ日本国内の資産が狙い目なのか

配偶者が海外の現地法人や外国の銀行に資産を移動させてしまうと、外国の裁判所や法制度を利用して強制執行を行う必要が生じ、費用面でも時間面でも途方もない労力がかかります。 これに対し、日本国内のメガバンク等にある預貯金口座や、日本国内に所有している不動産(持ち家・投資用マンションなど)であれば、日本の民事執行法に基づき、直接かつ強力な差押え手続きを進めることが可能です。

財産隠しを防ぐ「仮差押え」の仕組みと効力

裁判を起こして勝訴判決を得るまでには、数ヶ月から場合によっては1年以上の時間がかかります。その間に相手が国内の預貯金を引き出してしまっては、勝訴しても「ない袖は振れぬ」状態になってしまいます。 そこで重要になるのが、裁判の前に財産の処分を禁止する「仮差押え(かりささおえ)」という保全処分です。

  • 仮差押えとは: 将来の強制執行に備えて、相手の財産(預貯金や不動産など)の処分を一時的に禁止する裁判所の命令です。相手に告知することなく(片面審尋)スピーディーに実行されるため、財産の隠匿を防ぐ強力な武器となります。
  • 対象となる財産: メガバンクや地方銀行、ゆうちょ銀行などの国内預貯金口座、日本国内に所有する不動産、勤務先から支給される退職金見込額などが対象となります。
  • 疎明資料の重要性: 仮差押えを申し立てるには、「離婚請求や財産分与請求の権利があること(被保全権利)」と「今すぐ仮差押えをしなければ執行が困難になる恐れがあること(保全の必要性)」を資料によって証明(疎明)する必要があります。海外居住であるという事実自体が、「財産隠匿の恐れが高い」という保全の必要性を強力に裏付ける事情となります。

国内不動産(持ち家)および預貯金口座に対する差押えの実務

離婚調停や裁判を経て、あるいは離婚成立後の財産分与請求権に基づいて、実際に財産を差し押さえる際の手続きについて見ていきましょう。

1. メガバンク等の預貯金口座の差押え

配偶者の給与振込口座や、かつて生活費のやり取りに使っていた国内のメガバンク口座(三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行など)やゆうちょ銀行、ネット銀行の口座が特定できている場合、債権差押命令(強制執行)の申し立てを行います。
  • 口座特定のアドバイス: 相手の正確な支店名まで分かっていなくても、銀行名と口座名義が分かれば申し立てが可能なケースもあります。結婚期間中の通帳のコピーや、公共料金の引き落とし履歴、確定申告書の控えなどが有力な手がかりになります。
  • 第三者からの情報取得手続の活用: 2020年の民事執行法改正により導入された「第三者からの情報取得手続」を利用すれば、裁判所を通じて金融機関や市区町村、年金事務所等から相手の財産情報を取得しやすくなっています(※一定要件を満たす必要があります)。

2. 国内不動産(持ち家等)の差押え

配偶者名義の不動産が日本国内にある場合、不動産に対する強制競売の申し立てや、財産分与請求権を被担保債権とする仮登記・差押登記の活用を検討します。
  • 売却・換価による分与: 不動産に価値がある場合、競売にかけるだけでなく、裁判所の執行手続きの中で任意売却を進め、その売却代金から財産分与分を回収する道を探ることも実務上よく行われます。
  • 住宅ローンの残債確認: 不動産に多額の住宅ローンが残っており、アンダーローン(不動産の価値>ローンの残債)ではなくオーバーローン状態である場合、価値の評価やオーバーローンの処理について専門的な判断が必要となります。

2026年改正民法・最新の法的動向と弁護士のサポート

離婚や財産分与を巡る法制度は時代とともに進化しています。また、親権や養育費、財産分与の請求期限に関するルールも、ご依頼者様が直面するトラブル解決に深く関わってきます。

  • 財産分与の請求期間に関する注意: 離婚成立後における財産分与の請求期間(除斥期間)は、原則として離婚から2年と定められていますが、相手の海外居住や所在不明により協議や手続きが難航している場合、適切な法的措置を時系列で講じることが不可欠です。
  • 海外居住者への書類送達の壁: 海外にいる相手に対して日本の裁判所から書類を届けるには、外交ルートを通じた「嘱託送達」や、現地の日本大使館・領事館を利用する手続きなど、国際民事訴訟法に関する専門知識が求められます。

海外赴任中の配偶者との離婚や財産分与、資産の差押えは、通常の国内案件に比べて高度な法的ノウハウと機動力が要求されます。「海外にいるから無理だろう」と諦めてしまう前に、まずは日本国内にある資産の状況を整理し、早急に保全手続きに着手することが何よりも肝心です。

まとめ:国内資産の保全はスピードが命。まずは専門家へご相談を

相手が海外赴任や海外居住をしている場合、時間経過とともに国内資産が引き出され、取り戻しが困難になるリスクが日々高まります。 メガバンクの預貯金や国内の不動産という「確実なターゲット」に対して、仮差押えや差押えを的確に仕掛けることが、ご自身の正当な権利と生活を守るための最大のカギとなります。

当事務所では、プライバシーに配慮した面談スペースをご用意し、オンラインでのご相談にも柔軟に対応しております。海外居住の配偶者との財産分与や差押えでお悩みの方は、どうぞお気軽に当事務所の弁護士までご相談ください。

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