属性・職業別・熟年離婚

配偶者(夫・妻)が「要介護状態・認知症」になった場合の離婚請求の厳格さ

大阪弁護士会所属 弁護士 井上正人 監修

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、民法第763条(協議離婚)、第770条(裁判離婚)、第768条(財産分与)、2026年改正民法(共同親権・法定養育費)の規定および多数の離婚・親権・財産分与の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q: 配偶者(夫・妻)が「要介護状態・認知症」になった場合の離婚請求の厳格さ
A: 配偶者が要介護状態や認知症に陥った際、自らの生活再建などを理由とする離婚請求は、裁判所によって極めて厳格に判断されます。十分な療養配慮や確実な介護体制の確立がなされないままの請求は、原則として「権利の濫用」や婚姻関係破綻の責任(有責性)を問われ、棄却される可能性が極めて高くなります。夕陽ヶ丘法律事務所では、福祉専門職や後見制度とも連携し、法的・倫理的双方の観点から適正な解決策を模索します。

配偶者が病気や事故で要介護状態になったり、認知症を発症したりした際、介護負担や将来への不安から離婚を検討される方がいらっしゃいます。しかし、日本の法制度および裁判実務において、要介護者や認知症患者に対する離婚請求は、通常の離婚事案と比較して極めて厳格なハードルが設けられています。

夫婦間には民法上「同居・協力・扶助の義務」という重い法的責任が存在するためです。本記事では、要介護・認知症の配偶者に対する離婚請求がなぜ厳しく審査されるのか、裁判所の判断基準や、2026年改正民法を見据えた実務上の留意点を詳しく解説します。

要介護・認知症の配偶者に対する離婚請求が厳格視される理由

民法第770条第1項には、裁判上の離婚原因として「配偶者に強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」などが定められています。しかし、単に「介護の負担が大きい」「性格の不一致が重なった」といった理由だけで、要介護状態にある配偶者との婚姻関係を一方的に解消することは認められません。

裁判所がこの問題を厳格に捉える背景には、以下の理由があります。

  • 夫婦間の扶助義務の優先: 夫婦は互いに助け合う義務を負っており、特に配偶者が社会的・身体的に脆弱な立場にあるときは、その保護が優先されます。
  • 遺棄的離婚の防止: 経済力や健康な身体を失った配偶者を、生活の危機に直面した段階で切り捨てるような「遺棄」を法的に容認しないためです。
  • 社会的セーフティネットの欠如を補う観点: 離婚によって配偶者が無一文となり、適切な医療・介護を受けられなくなる事態を防ぐ必要があります。

裁判所が下す判断の基準:誠意ある療養配慮と介護体制

過去の最高裁判所の判例等においても、心身障害にある配偶者からの離婚請求については、残された配偶者側の事情だけでなく、「相手方の今後の療養・生活について、どれほど誠意ある配慮がなされているか」が決定的な要素となります。

裁判所が離婚を認めるか否かを判断する際、主に以下のポイントが厳しく審査されます。

  • 離婚後の生活保障: 離婚後、要介護者・認知症患者が路頭に迷わないだけの十分な財産分与、慰謝料、あるいは定期金的な扶養的財産分与が確保されているか。
  • 確実な介護体制の引き継ぎ: 請求者自身が介護を続けられない場合でも、親族、福祉施設、成年後見人などによる確実で安定した介護・医療体制がすでに整えられているか。
  • 請求者の責任(有責性): 介護を免れたいために一方的に別居を強行したり、精神的・物理的な暴力を伴うような形で関係を破綻させたりしていないか。

これらを満たさず、「自分が楽になりたい」という動機が先行した離婚請求は、権利の濫用として容認されません。

認知症配偶者の代理人と「成年後見制度」の壁

認知症が進行している配偶者と離婚協議を行う場合、さらに法的な複雑さが生じます。判断能力が著しく低下している状態の人は、自ら有効な法律行為(離婚の合意など)を行うことができません。

そのため、協議離婚を進めるにせよ裁判を起こすにせよ、原則として「成年後見人」の選任が不可欠となります。ここで注意すべき実務上のポイントは以下の通りです。

  • 利益相反の問題: 離婚を求める配偶者自身が、そのまま成年後見人になることは、お互いの利益が真っ向から対立するため(利益相反)、原則として認められません。
  • 第三者後見人の選任: 弁護士や司法書士などの第三者が成年後見人に選任され、認知症配偶者の財産および権利を徹底的に守る立場から、離婚条件(財産分与や慰謝料)の交渉を行います。
  • 後見人の役割: 成年後見人は「離婚に同意しないこと」を基本方針とすることが多く、適正な金銭的補償が提示されない限り、協議による解決は極めて困難になります。

2026年改正民法を見据えた財産分与・婚姻費用の実務

2026年施行の改正民法では、家族法分野において様々な見直しが進められています。特に離婚に伴う財産分与や扶養に関するルール、あるいは時効の整備は、要介護配偶者を抱える熟年離婚において大きな意味を持ちます。

  • 財産分与の請求期間(5年への伸長等): 財産分与の請求権を行使できる期間に関する法整備が進む中、将来の介護費用や医療費を見据えた適正な財産分与の算定がこれまで以上に重要視されます。
  • 婚姻費用・扶養的財産分与の重要性: 離婚が直ちに認められない場合、別居中の「婚姻費用(生活費の分担)」の支払い義務が継続します。また、離婚がやむを得ず成立する場合でも、配偶者の生存中の生活を支えるための扶養的財産分与が高額に認定されるケースがあります。

したがって、「別居して生活費を打ち切れば自然に離婚できる」という安易な考え方は、法的な支払義務違反(悪意の遺棄)を構成するため、厳に慎まなければなりません。

夕陽ヶ丘法律事務所における解決アプローチ

配偶者の要介護化や認知症を発症したご家庭からの離婚相談は、単に法律条文を当てはめるだけでは解決しません。法的正当性だけでなく、福祉、医療、親族関係の調整など、多角的な視点が求められます。

夕陽ヶ丘法律事務所では、ご相談者様のお話を落ち着いた面談スペースにてじっくりとお伺いし、以下のようなサポートを提供しております。

  • 法的妥当性の厳密な事前査定: 現在の状況証拠や介護体制を踏まえ、裁判所が離婚を認める可能性がどの程度あるかを正直にお伝えします。
  • 成年後見人・福祉機関との連携: 相手方配偶者の保護を確実にしながら、適法かつ円満な合意形成に向けた交渉戦術を立案します。
  • 適正な財産分与・離婚条件の設計: 将来の介護リスクや福祉費用を織り込んだ、将来的に破綻しない持続可能な離婚条件を取りまとめます。

要介護・認知症の配偶者との離婚問題でお悩みの方は、一人で抱え込まず、早い段階で専門の弁護士へご相談ください。法律と福祉のバランスを考慮した最適な道筋をご提案いたします。

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