養育費算定・不払い対策

相手が「自分は海外の会社へ出向した」と言った場合の年収換算

大阪弁護士会所属 弁護士 井上正人 監修

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、民法第763条(協議離婚)、第770条(裁判離婚)、第768条(財産分与)、2026年改正民法(共同親権・法定養育費)の規定および多数の離婚・親権・財産分与の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q: 相手が「自分は海外の会社へ出向した」と言った場合の年収換算
A: 海外出向であっても、日本の養育費算定表における「年収」には、現地給与や各種手当、住宅補助などの経済的利益がすべて含まれます。外貨建て給与は原則として出向期間中の平均為替レート等で日本円に換算し正確な総収入を算出します。相手が正確な収入を隠す場合は弁護士会照会や裁判所の手続きを通じて海外の給与明細や源泉徴収に相当する資料を特定し、適正な養育費を守り抜くことが可能です。

離婚協議や養育費の取り決めを進めている最中に、義務者側から「海外の関連会社へ出向することになった」「現地通貨での給与支給に変わり、日本の基準での年収が分からない」と告げられるケースが増えています。

海外出向を口実にして生活費や養育費を大幅に減額しようとする動きが見られますが、法律上、海外勤務であることを理由に子どもへの扶養義務が軽くなることはありません。

本記事では、海外出向時における年収換算の具体的なルール、赴任手当や現地通貨の扱い、そして正確な収入を立証して適正な養育費を獲得するための実務的な法的手続きについて詳しく解説します。

海外出向者の「年収」には何が含まれるのか

裁判所の養育費算定表においてベースとなる「総収入」は、給与所得者の場合であれば原則として「年間総支給額(税込み年収)」を指します。

海外出向の場合、日本の会社から給与が支払われるケース(出向元留職)と、現地の海外法人から直接給与が支払われるケース(現地採用・転籍扱い)など形態はさまざまですが、いずれの場合も「生活を維持するために実質的に得ているすべての経済的利益」が算定の対象となります。

赴任手当や現地手当の取り扱い

海外勤務に伴い、多くの企業では以下のような多様な手当が支給されます。

  • 海外赴任手当(ハードシップ手当など):生活環境の厳しさや危険度に応じて支給される手当。これも収入の一部とみなされます。
  • 住宅補助・家賃手当:会社が現地での住居費を全額または一部負担している場合、実質的な給与天引きや現物給与として、経済的利益(可処分所得の増加)を考慮して収入に加算、あるいは再計算されるケースがあります。
  • 教育手当・子女教育費:現地の子どもの日本人学校やインターナショナルスクールの学費を会社が負担している場合も、本来自分で支払うべき生活費を肩代わりしてもらっていると評価され、実質収入の認定において考慮されることがあります。

海外出向によって日本の給与明細上の金額が一時的に下がったように見えても、会社から支給されている諸手当を含めたトータルの経済的価値を再構築すると、日本にいた頃よりも総収入が増加しているケースが非常に多いのが実態です。

外貨から日本円への換算ルール

海外の現地法人から外貨(米ドル、ユーロ、現地通貨など)で給与や手当が支払われている場合、日本の裁判所へ提出するためには、すべて「日本円」に換算する必要があります。

この場合の換算において、どのような基準が用いられるのでしょうか。

為替レートの適用基準と実務

実務上、外貨を日本円に換算する際は、「問題となっている期間(別居時や調停・審判の申し立て時、あるいは直近の1年間など)の平均為替レート」を用いるのが一般的です。

為替相場は日々変動するため、義務者が「円安や現地通貨安のタイミング」のレートだけを主張して過小な金額を提示してくることがあります。しかし、弁護士が代理人として介入する場合や裁判所の手続きにおいては、客観的な公的機関の為替レートデータを基に、年間を通じた平均値や適正な時点のレートを算出して正確な日本円の総収入を導き出します。

正確な年収が分からない場合の法的な調査・立証手法

海外出向を理由に、相手が「源泉徴収票が出ない」「日本の税金を払っていないので証明できない」「給与明細を見せない」と非協力的になるケースは後を絶ちません。

しかし、日本国内に本社や母体企業が存在する以上、相手の収入をブラックボックスのまま放置する必要はありません。法的手段を活用することで、隠された海外赴任の収入実態を明らかにすることができます。

1. 弁護士会照会(弁護士法第23条の2に基づく照会)

日本国内の出向元企業に対して、弁護士会を通じて正式な照会を行います。 出向前の給与実績はもちろんのこと、海外出向契約の内容、現地での基本給、赴任手当、住宅手当、さらには赴任先法人への給与負担金の送金状況などについて、会社側に回答を求めることが可能です。企業側も弁護士からの正式な照会に対しては、個人情報保護法上の目的外利用の制限等の例外に該当するため、回答に応じるケースが多くあります。

2. 裁判所の文書送付嘱託・調査嘱託

調停や審判、裁判の係属中であれば、裁判所を通じて出向先企業や関係金融機関に対して正式な照会(文書送付嘱託や調査嘱託)を行うことができます。これにより、海外の現地法人における給与支払証明書や、給与が振り込まれている日本の銀行口座の入出金履歴などを強制力を持って開示させることが可能になります。

3. 2026年改正民法・財産分与制度を意識した財産保全

2026年施行の改正民法や財産分与における法改正の動向も踏まえ、海外赴任に伴う資産隠し(現地口座への財産移転など)を防ぐためには、早期の証拠確保が不可欠です。養育費だけでなく、財産分与の対象となる海外での貯蓄や現地資産についても、専門的な視点から網羅的に調査を行う必要があります。

海外出向の相手から適正な養育費を獲得するためのステップ

相手が海外出向している状況で、ご自身だけで相手やその勤務先と交渉することは非常に困難を伴います。言葉の壁や時差だけでなく、相手が会社を盾にして情報を開示しないためです。

適正な養育費を確実に受け取るためには、以下のステップを踏むことが重要です。

  1. 出向前の収入資料を徹底的に集める:海外へ出発する直前の源泉徴収票や確定申告書、給与明細、通帳のコピーなどを手元に残るだけ確保します。これらがベースライン(最低限の認定収入)の証明になります。
  2. 相手の海外勤務の「待遇」を特定する:どのような名目でどのような手当が支給されているか、現地の生活水準に関する情報を整理します。
  3. 弁護士に早期相談・依頼する:海外出向・国際離婚・複雑な財産調査に強い弁護士に依頼することで、出向元企業へのアプローチや為替換算を適正に行った上での養育費請求をスムーズに進めることができます。

まとめ

相手が「海外出向したから年収が分からない、養育費は払えない・減額する」と主張したとしても、それをうのみにする必要は一切ありません。

海外勤務であっても、現地給与や充実した諸手当を合わせた実質的な総収入は非常に高額であるケースが多く、法律上のルールや適切な調査手法を用いることで、隠された収入を正確に日本円に換算して算定することが可能です。

弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所では、複雑な海外出向・国際的な財産調査・養育費請求に関する豊富な解決実績を有しています。相手の海外勤務を理由にお悩みの方は、一人で抱え込まず、どうぞお気軽にご相談ください。落ち着いたプライベートな面談スペースにて、あなたの権利と子どもの未来を守るための最適な解決策をご提案いたします。

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