離婚訴訟を提起した後に、配偶者が隠していた預貯金口座や不動産、あるいは株式などの資産が新しく判明することは決して珍しくありません。最初の訴状を提出した時点では把握できていなかった財産について、適正な取り分を主張するためには「請求の趣旨の変更」という法的手続きを行う必要があります。
本記事では、離婚訴訟において金銭額の増額請求を行うための「請求の趣旨の変更」の手続きについて、具体的な書き方や注意点を法律実務の観点から分かりやすく解説します。
離婚訴訟における「請求の趣旨の変更」とは何か
裁判を起こす際、訴状の冒頭には「請求の趣旨」という項目を記載します。これは「被告に対して何をどれだけ求めるか」を結論として示すものであり、裁判所が判決を下す際の重要な枠組みとなります。
最初の訴状通りの金額では足りない理由
裁判所は、当事者が主張していない事項について勝手に判決を下すことができません(不弁論の禁止・処分権主義)。したがって、訴訟の途中で新たに数百万円の財産隠しが発覚したとしても、口頭で「この財産も含めてください」と言うだけでは、裁判所は判決に反映させることができません。
適正な財産分与や慰謝料を獲得するためには、正式な書面を提出して裁判所に請求金額の変更を申し出る必要があります。
どのような場合に増額請求を行うのか
離婚訴訟で金銭額の増額を行う主なケースとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 訴訟中の調査嘱託や文書送達嘱託によって、相手方の新たな預貯金口座や保険の解約返戻金が判明したとき
- 相手方が財産目録に記載していなかった不動産の存在が明らかになり、その価値も含めて分与を求めたいとき
- 離婚協議中から訴訟係属中にかけて発生した財産の変動や、評価額の再算定によって清算すべき金額が増加したとき
- 2026年改正民法で規定された財産分与の請求期間(5年)の枠内で、新たに過去の婚姻期間中の隠し財産が発覚したとき
請求の趣旨の変更手続きの流れ
実際に請求金額を引き上げるためには、法律に則った書面作成と裁判所への提出手続きが必要となります。
1. 変更申立書の作成
まずは「請求の趣旨の変更申立書」を作成します。この書面には、主に以下の事項を明確に記載します。
- 事件番号および当事者の氏名
- 「請求の趣旨を別紙のとおり変更する」という趣旨の宣言
- 変更後の「請求の趣旨」(例:「被告は、原告に対し、財産分与として金〇〇万円およびこれに対する令和〇年〇月〇日から支払い済みまで年〇分の割合による金員を支払え」)
- 変更の理由(新たに発見された財産の詳細や、その法的根拠)
2. 証拠書類の添付
金額を増額する正当な理由を示すため、新たな財産の存在を裏付ける証拠(通帳のコピー、不動産の登記簿謄本、保険会社の照会回答書など)を一緒に提出します。証拠に基づかないむやみな増額請求は、裁判官の心証を悪くするだけでなく、審理の遅延を招く原因となります。
3. 裁判所への提出と相手方への送達
作成した変更申立書は、担当裁判官(書記官)に提出します。通常、原本1通のほかに相手方に送付するための副本を用意します。裁判所から相手方へ副本が送達されることで、正式に請求の変更が法的な効力を持ちます。
金銭額の増額請求を行う際の重要な実務上の注意点
訴訟手続きの途中で請求の趣旨を変更する際には、実務上いくつかの重要なポイントに留意しなければなりません。
訴訟の遅延と期日の調整
請求額を大幅に変更する場合、相手方(被告)に対して新たな主張に対する反論の機会を与える必要があります。そのため、次回の期日が延期されたり、準備書面のやり取りが追加で行われたりすることがあります。解決までのスケジュールが延びる可能性がある点をあらかじめ考慮しておきましょう。
訴訟費用の負担に関する考慮
請求の趣旨を拡張(増額)した場合、追加した金額に応じて必要となる訴訟費用(収入印紙代など)が追加で発生することがあります。裁判の最終的な判決において、この追加分の訴訟費用がどのように負担されるかも重要な要素となります。
時効や除斥期間の確認
財産分与の請求権は、離婚が成立した時から原則として5年(2026年改正民法含む)で時効(除斥期間)が消滅します。訴訟係属中であれば時効の進行は止まりますが、新たな財産項目を追加するタイミングが遅れると、権利の行使自体が間に合わなくなるリスクがあるため、迅速な対応が求められます。
夕陽ヶ丘法律事務所が提供するサポート
離婚訴訟において、自分ひとりで相手方の財産隠しを見抜き、適切なタイミングで「請求の趣旨の変更」を行うことは非常に高いハードルと言えます。法的知識や証拠収集のノウハウが不足していると、本来得られるはずだった財産を取り逃がしてしまう危険性があります。
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