2026年改正民法・共同親権

離婚時に「財産分与は請求しない」と約束してしまった場合の取り消し

大阪弁護士会所属 弁護士 井上正人 監修

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、民法第763条(協議離婚)、第770条(裁判離婚)、第768条(財産分与)、2026年改正民法(共同親権・法定養育費)の規定および多数の離婚・親権・財産分与の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q: 離婚時に「財産分与は請求しない」と約束してしまった場合の取り消し
A: 離婚協議の際に「財産分与は請求しない」と口頭や書面で約束してしまっても、錯誤、詐欺、強迫があった場合や、公正証書にしていない場合は、法的な取り消しや無効主張ができる可能性があります。また、財産分与請求権の消滅時効は離婚から5年です。諦めずに弁護士へご相談ください。

離婚の話し合いが感情的にもつれ、「早くこの場から離れたい」「これ以上関わりたくない」という一心で、つい「財産分与は一切請求しない」と約束してしまうケースは少なくありません。

しかし、冷静さを取り戻した後に「本来もらえるはずの預貯金や退職金、自宅の持ち分をもらえないのは不当ではないか」と後悔される方は非常に多いです。

結論からお伝えすると、一度した約束であっても、法律上の要件を満たしていれば取り消しや無効を主張できる可能性があります。本記事では、財産分与の放棄を取り消すための法的根拠や、交渉のポイントについて詳しく解説します。

なぜ「請求しない」と約束してしまうのか

離婚時の話し合いは、精神的にも大きな負担がかかる場面です。以下のような状況で、十分な知識がないまま不利な約束をしてしまうケースが見受けられます。

  • 一刻も早く離婚を成立させたいという焦りから、相手の要求をすべて呑んでしまった
  • 「財産分与を放棄するなら離婚に同意する」と強く言われ、プレッシャーに屈してしまった
  • 相手が隠し持っている財産の存在を知らず、大した財産はないと言い含められてしまった
  • 弁護士に相談せず、インターネット上の不確かな情報や、当事者間の口約束だけで合意書にサインしてしまった

このようにして交わされた合意は、本当に法的な拘束力を持ち続けるのでしょうか。次は具体的な法的救済の手段を見ていきましょう。

「財産分与の放棄」を取り消すための3つの法的根拠

一度合意した財産分与の放棄を取り消すには、民法上のルールに基づいた理由が必要です。主に以下の3つのアプローチが検討されます。

1. 錯誤(さくご)による無効・取り消し

民法では、法律行為の要素に「錯誤」があった場合、その意思表示は取り消すことができると定めています(※民法改正により現在は「錯誤による無効」から取消権に整理されています)。

例えば、「夫婦共有財産がほとんどない」と相手に騙されていたり、自分自身の権利についての認識に重大な勘違い(錯誤)があり、それが合意の基礎となっていた場合です。真実の財産額を知っていれば絶対に放棄しなかったと言えるような状況であれば、取り消しを主張できる余地があります。

2. 詐欺(さぎ)による取り消し

相手が意図的に財産を隠蔽したり、嘘の情報を伝えたりして、誤信させて「請求しない」という合意をさせられた場合は、詐欺による取り消しが可能です。

例えば、相手が裏で多額の預貯金や株を所有しているにもかかわらず、「貯金など一円もない」と偽って財産分与を免れようとしたケースなどが該当します。

3. 強迫(きょうはく)による取り消し

精神的あるいは身体的な脅しによって恐怖心を抱かされ、無理やり「財産分与は請求しない」と書面に署名させられたような場合は、強迫による取り消しを主張できます。

「子供に二度と会わせない」「会社にバラす」などと脅されて仕方なく応じたケースは、強迫にあたる可能性が高く、法律上、こうした不当な圧力の下で行われた合意は保護されません。

見落としてはならない「5年の時効(除斥期間)」

財産分与の請求には、法律上の明確なタイムリミットが設けられています。

民法上、財産分与を請求できる期間は、「離婚が成立したときから5年」と定められています。

これは消滅時効、あるいは除斥期間としての性質を持ちます。つまり、「財産分与を請求しない」という約束を取り消して、改めて正当な財産分与を相手に求める場合であっても、離婚成立の翌日から起算して5年以内に法的アクションを起こさなければ、権利が完全に消滅してしまいます。

離婚から時間が経てば経つほど、相手側の財産が散逸したり、証拠が集めにくくなったりするリスクが高まります。もし「あのときの約束は納得がいかない」と感じているのであれば、できる限り早い段階で専門家である弁護士にご相談いただくことが極めて重要です。

口約束と書面(公正証書など)の違い

「財産分与は請求しない」と伝えた方法や、その記録の残り方によっても、今後の対応や難易度は大きく変わります。

  • 口頭だけの約束の場合: 証拠が残りにくく、相手が「そんな約束はしていない」と争うことも多いため、財産分与の調停や審判を申し立てて話し合いを再開しやすい傾向があります。
  • 私的な合意書やメモの場合: 署名や捺印がある場合でも、上記のような「錯誤・詐欺・強迫」の事情があれば、取消権の行使を主張する書面を内容証明郵便等で送付し、交渉をやり直す余地があります。
  • 公正証書(離婚協議書)に記載されている場合: 公証役場で作成された公正証書に「財産分与を一切請求しない」と明確に記載されている場合、法的な証明力が高いため、単に「後から気が変わった」という理由だけでは覆すことが非常に難しくなります。ただし、この場合であっても、作成過程における強迫や重大な財産隠し(詐欺)が証明できれば、取り消しの訴えを起こす道がゼロになるわけではありません。

弁護士に依頼するメリットと解決へのステップ

一度してしまった約束を覆し、適正な財産分与を取り戻すためには、個人での交渉では限界があります。相手が弁護士を立ててきたり、話し合い自体を拒絶してきたりすることが多いためです。

夕陽ヶ丘法律事務所では、以下のようなステップでご依頼者様をサポートいたします。

  • 事実関係のヒアリングと法的評価: 合意に至った経緯を詳しく伺い、錯誤・詐欺・強迫の要件を満たしているか、また時効(5年)に間に合うかを厳密に精査します。
  • 財産調査の実施: 相手が隠している可能性のある預貯金、不動産、退職金、保険解約返戻金などの証拠収集を法的手続(弁護士会照会など)を活用して行います。
  • 代理交渉・法的手続: 相手方に対する合意の取消通知(内容証明郵便)の発送から、家庭裁判所での財産分与調停・審判まで、一貫して代理人としてサポートいたします。

夕陽ヶ丘法律事務所では、落ち着いた相談ブースやプライバシーに配慮した面談スペースをご用意しております。周囲の目を気にせず、安心してご相談いただける環境を整えています。

「一度約束してしまったから無理だ」と泣き寝入りしてしまう前に、まずは当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。あなたの権利を守るための最適な解決策を一緒に見つけ出しましょう。

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