2026年改正民法・共同親権

相手が「海外へ居住地を移した」場合の離婚後5年以内の財産分与

大阪弁護士会所属 弁護士 井上正人 監修

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、民法第763条(協議離婚)、第770条(裁判離婚)、第768条(財産分与)、2026年改正民法(共同親権・法定養育費)の規定および多数の離婚・親権・財産分与の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q: 相手が「海外へ居住地を移した」場合の離婚後5年以内の財産分与
A: 相手が海外へ移住しても、離婚後5年の除斥期間内であれば日本国内の裁判所で財産分与を請求できます。ポイントは、日本国内に残された預貯金や不動産に対し、財産隠しを防ぐための「仮差押え」を速やかに行うことです。また、海外への裁判書類の送達には時間がかかるため、国際民訴法やハーグ条約に基づく正確な手続きが不可欠となります。

離婚後に相手が海外移住した場合の財産分与の基本

夫婦が離婚する際、婚姻期間中に築いた財産を分け合う「財産分与」は、法的に認められた重要な権利です。しかし、元配偶者が離婚を機に、あるいは離婚後に仕事や私生活の事情で海外へ居住地を移してしまうケースが増えています。

「相手が日本にいないから、財産分与はもう諦めるしかないのではないか」と不安に思われる方も少なくありません。しかし、結論から申し上げますと、相手が海外に居住していても、法律上の要件を満たしていれば日本国内の裁判所を通じて財産分与を請求することは十分に可能です。

民法上、財産分与を請求できる期間は離婚したときから5年間と定められています(民法768条2項後段)。この期間は「除斥期間(権利の存続期間)」と呼ばれており、時効とは異なり原則として中断がありません。そのため、相手が海外にいることで連絡がつきにくくなっている間に5年が経過してしまわないよう、迅速かつ戦略的な法的アプローチが求められます。

海外にいる相手に対する財産分与請求の2大壁

相手が海外へ移住している場合、国内での離婚調停や裁判とは異なり、実務上いくつかの高いハードルを越えなければなりません。主に直面する問題は以下の2点です。

  • 海外送達の難しさと時間的ロス:日本の裁判所から発行される書類を、外国にいる相手に正式に届けるための特殊な手続き(外交ルートやハーグ条約に基づく送達)が必要となります。
  • 日本国内における財産の隠匿・散逸リスク:相手が海外へ転居するタイミングで、国内に残された預貯金や不動産を勝手に処分したり、口座から資金を抜き出したりする危険性があります。

これらの壁を突破するためには、国内に残された財産の状況を素早く把握し、法的効力の高い保全処分を講じることが極めて重要となります。

日本国内に残る財産に対する「仮差押え」の重要性

海外に居住する相手に対して財産分与を申し立てる場合、最も警戒すべきなのは財産の持ち逃げや隠匿です。裁判を起こしている間に、日本国内の銀行口座にある預貯金が海外送金されたり、不動産が第三者に売却されたりしては、せっかく勝訴しても分与を受ける原資がなくなってしまいます。

これを防ぐための強力な武器が、民事保全法に基づく「仮差押え(かりささえ)」という手続きです。

  • 預貯金の仮差押え:相手名義の国内銀行口座を特定し、引き出しや口座の解約を一時的に凍結させます。
  • 不動産の仮処分・仮差押え:日本国内に自宅マンションや土地などの不動産が残っている場合、登記簿上に「処分禁止の仮処分」等を設定することで、勝手な売却を防ぐことができます。

仮差押えを行うためには、「財産分与の請求権があること」に加え、「このままでは将来の強制執行が著しく困難になるおそれ(海外在住という客観的事実)」を裁判所に疎明(証明に近い資料の提出)する必要があります。夕陽ヶ丘法律事務所の弁護士は、こうした保全手続きの申し立てにおいて豊富な実績を有しています。

海外にいる相手への裁判書類の送り方(海外送達)

日本国内で財産分与の調停や審判、あるいは訴訟を提起した場合、裁判所から相手方に対して呼出状などの書類を送達しなければなりません。相手が海外にいる場合に行われるのが「海外送達(かいがいそうたつ)」です。

海外送達には、主に相手の居住国の法律制度や国際条約に応じた方法が用いられます。

  • ハーグ条約に基づく送達:日本と相手の居住国がともに「民事又は商事に関する裁判上の共助に関する条約(ハーグ条約)」に加盟している場合、外務省や現国の中心当局を経由して正式な書類送達を行います。
  • 領事送達:現地の日本大使館や領事館の領事官を通じて、相手に書類を交付する方法です。
  • 付郵便送達(日本国内に最後の住所がある場合など):相手の正確な海外住所が分からない場合や送達が著しく困難な場合において、一定の要件のもとで国内の最終住所地宛てに書留郵便等を発送し、送達されたとみなす実務的な救済措置が取られることもあります。

海外送達は通常の国内送達に比べて数ヶ月単位の時間がかかることが多く、手続きの不備があるとやり直しになってしまいます。5年の除斥期間が迫っている状況下では、このタイムロスが致命傷になりかねません。専門の弁護士による迅速なスケジュール管理が不可欠です。

2026年改正民法を見据えた財産分与実務のポイント

2026年に施行される改正民法(共同親権の導入や養育費・財産分与に関する法整備の進展)を見据えても、離婚後の財産関係を早期にクリアにしておくことの重要性は高まっています。

改正民法下では、離婚に伴う諸条件の取り決めがより多角的になる一方、国際的な子の連れ去りや財産の所在に関するトラブルへの関心も高まっています。特に海外移住を伴う離婚や別居においては、養育費の不払いリスクと財産分与の未了リスクがセットで発生しやすくなります。

「相手が海外にいるから無理だろう」と諦める必要は一切ありません。むしろ、相手が日本から離れているからこそ、国内に残された資産をターゲットにした保全と法的手続きを的確に進めることで、正当な権利を取り戻すことが可能です。

まとめ:海外移住者の財産分与は弁護士にご相談を

相手が海外へ居住地を移した場合の離婚後5年以内の財産分与は、国際的な送達実務、国内財産の保全処分(仮差押え)、そして5年の除斥期間という時間的制約が絡み合う、非常に高度な法的判断を要する分野です。

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