2026年改正民法・共同親権

共同親権下での「医療行為(手術・ワクチン・持病治療)」の同意ルール

大阪弁護士会所属 弁護士 井上正人 監修

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、民法第763条(協議離婚)、第770条(裁判離婚)、第768条(財産分与)、2026年改正民法(共同親権・法定養育費)の規定および多数の離婚・親権・財産分与の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q: 共同親権下での「医療行為(手術・ワクチン・持病治療)」の同意ルール
A: 2026年改正民法による共同親権の導入後も、風邪の受診や日常的なけがの治療といった「日常の監護・教育に関する行為」は、同居する監護親が単独で決定できます。一方で、生命に関わる重大な手術や、任意である新しいワクチンの接種、長期間にわたる特殊な持病治療などについては、原則として父母双方の同意が必要です。意見が対立した場合は家庭裁判所の判断を仰ぐことになりますが、緊急時は子の利益を最優先し、例外的に単独判断が認められるケースもあります。

2026年の改正民法施行により、離婚後も父母双方が親権を持つ「共同親権」を選択できるようになりました。これにより、子どもの養育に関する重大な決定は、原則として父母が共同で行うことが義務付けられます。

中でも現場の保護者から最も多く寄せられる不安が、子どもの「医療行為」に関するルールです。「急な病気のとき、相手の同意が取れなかったらどうなるのか」「予防接種やアレルギー治療はどちらの判断で進められるのか」といった疑問について、法律上の整理と具体的な実務対応を弁護士が詳しく解説します。

2026年改正民法における親権行使の基本構造

共同親権が導入された背景には、離婚後も両親が子どもの養育に関わり続けることが、子どもの健やかな成長にとって望ましいという理念があります。しかし、すべての決定に常に両親の同意を求めるとなると、かえって子どもの利益を損なう事態が生じかねません。そのため、改正民法では親権の行使を以下の二つに大きく分類しています。

  • 日常の監護・教育に関する行為(単独で行えるもの)
  • 子の利益に重大な影響を与える事項(原則として共同で行うもの)

この分類に照らし合わせることで、医療現場や日常生活でどのような判断が求められるのかが明確になります。

「日常の医療行為」は監護親の単独決定が可能

子どもは風邪をひいたり、学校や公園でけがをしたりと、日常的に医療機関を受診する機会が多くあります。これらすべてにおいて離れて暮らすもう一方の親の同意を得なければならないとすれば、迅速な治療の妨げになります。

そのため、以下のような「日常的・定型的な医療行為」については、実際に子どもを手元で育てている監護親が単独で決定し、医療機関に同意書を提出することが認められています。

  • 発熱、腹痛、一般的な感染症(インフルエンザや溶連菌など)の受診と処方薬の服用
  • 日常的なけがの処置(擦り傷の消毒、軽度な骨折の治療など)
  • 歯科での定期検診や虫歯の一般的な治療

医師から「通常のリスクを伴う一般的な治療」と説明される範囲であれば、別居親への都度確認を省略してスムーズに対応して差し支えありません。

「重大な医療行為」に該当するものと共同同意の原則

一方で、子どもの身体や生命に大きな影響を与える可能性のある医療行為や、判断が分かれやすいデリケートな医療処置については、共同親権の枠組みにおいて「父母双方が話し合って合意する」ことが原則となります。

具体的には、以下のようなケースがこれに該当します。

  • 生命の危険を伴うような大きな外科手術(心臓手術や脳外科手術など)
  • 安全性がまだ十分に確立されていない、あるいは副反応のリスクが議論されている新しい予防接種
  • 長期間にわたる投薬や、子どもの人生観・身体に重大な変更を強いる精神科的な治療・カウンセリング
  • 宗教上の理由などで特定の輸血や血液製剤の使用を拒否するような特殊な方針

これらの事項に関して、もし父母の間で意見が対立した場合には、話し合いだけでの解決が難しくなります。

意見が対立した場合の法的救済手段

「子どもにどうしてもこの手術を受けさせたい」と考える親と、「リスクが高すぎるため反対する」と主張する親の間で意見が割れた場合、一方が勝手に手続きを進めることは法律違反となるリスクがあります。

このような膠着状態に陥ったときは、家庭裁判所に対して「親権の行使に関する処分」の調停や審判を申し立てる必要があります。家庭裁判所は、医療機関の意見書や医師の診断書などを総合的に考慮し、何が最も「子どもの利益(子の福祉)」に適っているという観点から、どちらの親の判断を優先すべきかを決定します。

緊急時の例外措置:子どもの命が最優先されるケース

「重大な医療行為には双方が同意すべき」という原則は、あくまで平時の想定に基づくものです。事故や急病により、子どもの生命が危険にさらされている緊急の場面において、もう一方の親と連絡がつかない、あるいは意見がまとまらないという理由で治療が遅れることは、絶対に避けなければなりません。

法律上も、医療現場の緊急避難や緊急治療の必要性が認められる場面では、現場の医師の判断と、目の前にいる親(監護親)の同意のみで直ちに手術や救命措置を行うことが可能です。

後から「勝手に同意した」「自分の同意が無視された」と相手の親がトラブルを持ち込むケースも想定されますが、子どもの生命・身体の安全を守るための緊急対応であれば、法的責任を問われる心配はありません。

予防接種や持病治療をめぐる実務上の注意点

実務上、最もトラブルになりやすいのが「予防接種の選択」と「持病の継続治療」です。

予防接種に関するトラブル

定期接種として国が推奨している一般的なワクチン(麻しん、風しん、日本脳炎など)については、日常の健康管理の一環として監護親の判断で接種を進めることが容認される傾向にあります。しかし、任意の予防接種や、新しく開発されたワクチンの接種については、副反応への懸念などから意見が対立することが少なくありません。

別居親から「予防接種を受けさせないでほしい」と書面やメッセージで明確に反対意見が示されている場合は、無理に接種を強行するのではなく、かかりつけ医を交えて客観的な医学的リスクを説明し、理解を促すプロセスを踏むことが重要です。

持病治療における方針の共有

喘息やアレルギー、小児糖尿病などの持病がある場合、日々の服薬管理や通院スケジュールは子どもの生存に直結します。共同親権のもとでは、こうした持病の治療方針について、離婚後であっても定期的に情報を共有し合うことが理想とされています。

どちらか一方の親が情報を隠したり、独断で治療方針をガラリと変えたりすることは、子どもの健康を害するだけでなく、親権者としての不適切な行使とみなされるおそれがあります。

医療行為を巡る紛争を防ぐためのポイント

離婚協議や離婚調停において共同親権を選択する場合、あるいはすでに共同親権となっている状態で医療トラブルを未然に防ぐためには、事前の取り決めが極めて有効です。

  • 協議書や計画書への明文化:離婚時に作成する養育に関する合意書や計画書の中に、日常の医療行為の範囲や、重大な医療行為が発生した際の連絡手順についてあらかじめ定めておく。
  • 連絡網と医療情報の共有:子どもがかかりつけにしている病院の情報を常に双方で共有し、緊急時には速やかに連絡が取れる体制を維持する。
  • 専門家への早期相談:相手が理由なく医療行為の同意を拒絶している場合や、子どもの治療に支障が出ている場合は、感情的に衝突する前に弁護士などの法律専門家に相談し、適切な法的手続きのアドバイスを受ける。

夕陽ヶ丘法律事務所では、2026年改正民法に基づく共同親権の運用や、離婚後の子どもの養育に関するご相談を数多く承っております。落ち着いた相談ブースにて、プライバシーに完全に配慮した面談を行っておりますので、医療行為の同意や親権行使でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

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