2026年に施行される改正民法により、離婚後共同親権制度が導入されます。これまで離婚後は単独親権とされていた日本法において、父母が共同して子どもの監護や教育に関する重大な事項を決定する仕組みが原則となります。
しかし、子どもの日常生活や不意のトラブルにおいて、毎回もう一方の親と連絡を取り合い、合意を得ることは現実的に困難な場面も想定されます。その代表例が、子どもの生命や身体に危険が迫る「急迫の事情」です。
本記事では、改正民法における「急迫の事情」の定義、緊急手術や災害避難などの具体的なケース、そして単独で親権を行使できる法的要件について、法律実務の観点から詳しく解説します。
2026年改正民法における共同親権の原則と例外
改正民法の導入により、離婚後も父母双方が親権を持つ「共同親権」が選択できるようになります(裁判所が父母の対立やDV・虐待のおそれ等を考慮して単独親権と定める場合を除きます)。
共同親権のもとでは、子どもの進学、医療行為、転居などの重大な事項については、原則として父母双方が合意しなければなりません。しかし、この原則を厳格に適用しすぎると、タイムリーな医療処置や緊急避難が遅れ、子どもの利益を著しく害するおそれがあります。
そのため、改正民法では、一定の例外規定を設けて子どもの安全と利益を最優先に守る仕組みとしています。これが、今回注目する「急迫の事情」における単独行使権です。
「急迫の事情」とは何か:法律上の定義と該当要件
法律上、親権の共同行使の原則に対する例外として認められる「急迫の事情」とは、文字通り一刻を争う差し迫った状況を指します。
具体的には、事前の協議を行っている暇がなく、直ちに親権を行使しなければ子どもの生命、身体、または健康に取り返しのつかない重大な不利益が生じるおそれがある状況をいいます。
この判断においては、単に「連絡がつきにくい」「意見が少し食い違っている」といったレベルではなく、客観的に見て緊急性が極めて高いかどうかが厳しく審査されます。
具体的なケーススタディ:単独での親権行使が認められる場面
実務上、「急迫の事情」に該当し、他方の親の同意なしに単独で親権を行使できる代表的なケースをいくつか見ていきましょう。
1. 子どもの生命に関わる緊急手術や重大な医療行為
事故に遭った子どもが病院に搬送され、直ちに緊急手術を行わなければ命に関わるという状況は、典型的な「急迫の事情」に該当します。
通常、外科手術や予防接種など身体に侵襲を伴う重大な医療行為は共同親権者である父母の合意が必要ですが、医師から「今すぐ手術をしないと危険である」と告げられたような緊迫した状況下では、現場にいる一方の親の判断のみで手術の同意書に署名することが認められます。
2. 災害発生時の避難および安全確保
大規模な地震、洪水、火災などの災害が発生し、子どもを安全な場所に避難させる必要がある場合も、単独での親権行使が認められます。
避難場所の選定や、危険区域からの移動、避難先での応急処置などについては、遠方にいる、あるいは連絡が取れない他方の親の承諾を待つことなく、手元にいる親の判断で直ちに行動を起こすことが可能です。
3. 突然の重大な事故・傷害に対する応急措置
日常生活の中で子どもが重度のやきゅう、中毒、あるいは意識障害を引き起こすような事故に遭遇した場合も同様です。救急搬送の手続きや、命を救うための緊急の医療的判断については、単独で行うことが法律上正当化されます。
「急迫の事情」に該当しないケースへの注意点
一方で、名称が似ていても「急迫の事情」とは認められず、後に大きな法的トラブルに発展するリスクがあるケースにも注意が必要です。
- 定期的な歯科矯正や、生命に直結しない一般的な外科手術
- 事前にスケジュールが分かっている私立学校への受験や転校手続き
- 数ヶ月前から予定されていた海外旅行やパスポートの発給申請
- 日常的な習い事の入会や、医療保険の加入手続き
これらは計画的な協議が可能であるため、たとえ相手の親が話し合いに応じない場合であっても、勝手に単独で決定を下すと、親権の濫用や違法行為とみなされる可能性があります。協議が調わない場合は、家庭裁判所の調停や審判の手続きを利用する必要があります。
事後報告と記録の重要性
「急迫の事情」を理由として、一方の親が単独で親権を行使(例:緊急手術の同意など)した場合、そこで終わりではありません。
事態が落ち着き、子どもの安全が確保された段階で、速やかに他方の親に対して経緯と結果を報告する義務が生じます。なぜその判断が必要だったのか、どのような医療処置や避難行動をとったのかを、医師の診断書や記録とともに誠実に説明することが、その後の無用な紛争を防ぐために不可欠です。
隠蔽したり事後報告を怠ったりすると、相手の親との信頼関係が完全に破綻し、親権者変更の申し立てや面会交流の制限を巡る新たな法廷闘争に発展するリスクが高まります。
トラブルを未然に防ぐために弁護士にご相談ください
2026年改正民法における共同親権制度は、子どもの利益を守るためのものですが、その運用には細かい法的判断が伴います。特に「急迫の事情」の解釈や、事後報告のあり方、あるいは普段からの親権行使を巡る意見の対立については、個別の事案に応じた専門的な法的アドバイスが欠かせません。
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