財産分与・住宅ローン・預金

「暗号資産(ビットコイン・Web3資産)」の隠匿調査と離婚時の評価・分与

大阪弁護士会所属 弁護士 井上正人 監修

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、民法第763条(協議離婚)、第770条(裁判離婚)、第768条(財産分与)、2026年改正民法(共同親権・法定養育費)の規定および多数の離婚・親権・財産分与の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q 配偶者が隠しているビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)を離婚時に財産分与の対象として見つけ出し、適正に分け合うにはどうすればよいですか?
A 【法的判断基準と財産分与の仕組み】暗号資産はブロックチェーン技術を基盤とするペーパーレス資産であり、物理的な通帳が存在しないため配偶者に隠されやすい財産です。民法上の財産分与対象となり、別居日時点の市場価格を基準に時価評価して算定します。また、財産分与請求権の時効(期間制限)が5年に伸長された改正民法の下、適正な請求が可能です。
【弁護士による調査と解決へのアプローチ】公的な相談窓口や弁護士会等では、自宅の端末に残された取引履歴や確定申告書(雑所得の申告)などの手がかりをもとに、国内外の主要取引所やブロックチェーン解析を通じて隠し口座を特定します。泣き寝入りせず、弁護士を通じた法的手続きで正当な財産分与を実現します。

暗号資産が離婚の財産分与でトラブルになりやすい理由

近年、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)をはじめとする暗号資産(仮想通貨)は、投資対象やデジタル資産として広く普及しています。しかし、離婚時の財産分与においては、その特殊性ゆえに深刻なトラブルへと発展するケースが急増しています。

従来の預貯金や不動産であれば、銀行の通帳や登記簿謄書といった物理的・半物理的な証拠が残りやすく、財産の存在を証明することが比較的容易でした。これに対し、暗号資産はブロックチェーン技術を基盤としており、インターネット上のウォレット(財布)や暗号資産取引所にデータとして存在するのみです。そのため、配偶者に無断で口座を開設され、資産の存在自体を隠されてしまうケースが後を絶ちません。

配偶者が隠し持つ暗号資産を見つけ出す「隠匿調査」の手法

「夫(妻)がこっそり仮想通貨を買っている気がするけれど、証拠がない」というご相談を多くいただきます。暗号資産の隠匿を見破り、財産分与の対象として浮上させるためには、以下のような専門的なアプローチが必要となります。

  • 自宅のパソコンやスマートフォンに残された、取引所からのメール通知やログイン履歴の確認
  • 確定申告の控え(暗号資産の売買で利益が出ている場合、雑所得として申告義務が生じるため、税務書類にヒントが残ります)
  • 銀行口座の入出金履歴(国内の暗号資産取引所への日本円の振込履歴がないかを確認します)

こうした手元にあるわずかな手がかりをもとに、弁護士会照会(民事訴訟法第197条に基づく調査嘱託や弁護士会法第23条の2に基づく照会)を活用し、国内の主要な暗号資産交換業者に対して口座保有の有無を照会することが可能です。これにより、隠されていた口座や保有残高を法的な手続きによって明るみに出すことができます。

別居日を基準とした暗号資産の「適正評価」と時価の変動リスク

暗号資産の最大の特徴は、株式市場以上に価格のボラティリティ(価格変動)が極めて激しい点です。離婚協議や裁判の過程で価格が急騰したり急落したりするため、「いつの時点の価格で評価するのか」という点が財産分与において非常に重要な争点となります。

裁判実務において、夫婦の共有財産を評価する基準時は原則として「別居時(実質的な婚姻関係が破綻した時)」とされています。したがって、暗号資産についても、別居日時点において当該取引所が提示していた終値や市場価格をベースに評価額を算定します。

例えば、別居時点では総額100万円分の価値だったビットコインが、離婚調停の最中に価格が高騰して300万円になったとしても、原則として別居時の100万円を基準に分与額を計算することになります。逆に、別居後に価格が暴落した場合でも、別居時の価値をベースに主張・立証していく必要があるため、正確な別居日の確定と当時の価格を証明するスクショや取引履歴の保全が不可欠です。

海外取引所やハードウェアウォレットの壁と弁護士の介入

国内の取引所であれば弁護士会照会等によって調査の手が及びますが、問題となるのはバイナンス(Binance)などの海外の無登録・海外拠点の取引所を利用している場合や、インターネットから切り離されたハードウェアウォレット(冷温保存)に資産が移されている場合です。

これらを完全に個人で特定し、差し押さえることは極めて困難を極めます。しかし、だからといって諦める必要はありません。日常の生活費の支出傾向、海外送金の痕跡、不審な通信記録などから資金移動のフローを推測し、相手方本人に対する裁判所での尋問や財産開示手続を通じて、隠された暗号資産の存在を自白・開示させる法的アプローチをとることが可能です。

2026年改正民法を見据えた財産分与の戦略

2026年現在、民法改正により財産分与の請求権に関する期間制限(除斥期間)が、従来の離婚成立から「2年」から「5年」へと大幅に伸長されました。これにより、離婚時には暗号資産の存在に気づけず、離婚成立から数年が経過した後に隠匿が発覚した場合であっても、一定の条件を満たせば財産分与を請求する道が開かれています。

「離婚から時間が経っているから泣き寝入りするしかない」と諦める前に、法律上の権利期間が延びたこの法改正のメリットを最大限に活かし、専門的な調査を行うことが重要です。

暗号資産の財産分与を適正に実現するために弁護士へご相談ください

暗号資産をめぐる財産分与は、IT技術の知識と、高度な法的調査手法の両方が求められる複雑な分野です。配偶者が資産を隠し通そうとしたり、価値の変動を理由に不当な主張を繰り返したりする場合、当事者間での話し合いによる解決は極めて困難です。

公的な相談窓口や弁護士会等では、落ち着いた相談ブースやプライバシーに配慮した面談スペースをご用意し、ご相談者様が抱えるデジタル資産の財産分与の悩みについて、親身かつ的確にサポートいたします。隠されたビットコインやWeb3資産を適正に評価し、あなたの正当な権利を取り戻すために、ぜひ法テラスや弁護士会などの公的窓口の弁護士までご相談ください。