離婚時の財産分与において、大きな争点になりやすいのが退職金です。退職金は「賃金の後払い」という性格を持つため、婚姻期間に対応する部分は共有財産として分与の対象になります。
しかし、勤務先の経営状況が不安定であったり、夫婦の一方が「近いうちに自己都合で退職するかもしれない」と考えていたりする場合、将来本当にその退職金が支給されるのかという疑問が生じます。
今回は、退職金支給の不確実性や早期自己都合退職リスクがある場合の裁判例の考え方と、実務上の対応策について詳しく解説します。
退職金が財産分与の対象となる基本原則
裁判実務において、退職金が財産分与の対象となるためには、将来退職金が支給されることが「相当程度確実」である必要があります。
定年退職まで残り数年の会社員であれば、支給の確実性は非常に高いと判断されます。また、すでに退職して退職金を受け取っている場合は、文句なしに共有財産として分与の対象です。
一方で、まだ若く、転職の可能性が高い場合や、中小企業・ベンチャー企業に勤めていて将来の倒産リスクが懸念されるような場合は、「実際に支給されるか分からない」というリスクが問題になります。
支給の不確実性と評価減に関する裁判例の傾向
将来の退職金に不確実性がある場合、裁判所は一律に「対象外」とするのではなく、リスクの度合いに応じて額を調整(評価減)するアプローチをとることが一般的です。
会社の経営悪化による不確実性
会社の業績が悪化しており、定年まで会社が存続するか分からない、あるいは退職金自体が減額・不支給になる可能性があるケースについて、裁判所は過去の財務状況や業界の動向を考慮します。
確実性が著しく低いと認められる場合には、財産分与の対象から除外されるか、あるいは額を大幅に割り引いて計算されることがあります。
早期の自己都合退職リスク
「数年以内に自分の意志で退職する予定がある」「すでに転職活動をしている」といったケースでは、定年退職を前提とした満額の退職金をベースに計算することは不公平です。
裁判例では、自己都合退職の場合、勤続年数が短いほど退職金の支給額が低くなる(あるいは支給されない)退職金規程の内容を重視します。そのため、別居時または口頭弁論終結時に仮に自己都合退職したとした場合の支給額を基準に算定したり、将来の不確実性を考慮して一定割合を減額したりする調整が行われます。
2026年改正民法を踏まえた財産分与実務のポイント
2026年施行の改正民法において、財産分与の請求期間が「離婚の時から5年」に延長されたことなどにより、離婚後に改めて退職金等の財産分与を請求するケースや、より緻密な財産調査が行われるケースが増加しています。
退職金の評価をめぐるトラブルを防ぐためには、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
- 退職金規程の取り寄せと確認:会社がどのような条件で退職金を支給しているか、自己都合と会社の都合でどう差があるかを正確に把握する。
- 別居時点での計算:退職金算定の基準時は、原則として「別居時」となります。別居時に自己都合退職した場合の支給額がいくらになるかをシミュレーションする。
- 将来リスクの数値化:不確実性や早期退職の可能性をどのように主張・立証するか、弁護士の専門的なサポートを活用する。
退職金の財産分与で納得がいかない場合の対処法
ご自身が支払う側(または受け取る側)で、「会社が危ないから全額払うのは納得いかない」「相手がすぐに辞める予定なのに定年退職ベースで計算されている」といった不満を抱える方は少なくありません。
感情的な対立を避け、客観的な資料(就業規則、退職金規程、会社の財務状況に関する資料など)をもとに交渉を行うことが解決への近道です。
夕陽ヶ丘法律事務所では、落ち着いた相談ブースにてプライバシーに配慮しながら、ご相談者様のお話を丁寧にお伺いしています。複雑な退職金の評価や、将来の生活設計を見据えた財産分与でお悩みの方は、ぜひ当事務所の弁護士へご相談ください。
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